結論から書きます。日本の売上高上位企業でも生成AI導入済みは57.7%(n=517、2025年9月調査)。活用の課題の最上位は技術やコストではなく「リテラシーやスキルが不足している」70.3%で、前年度の65.4%から4.9ポイント悪化しました。同時にIT予算を増やす企業は59.0%から49.0%へ10.0ポイント下がっています。

一次資料の実測:誰に聞いて、何が出たのか

株式会社野村総合研究所(NRI)が公表した「ユーザー企業のIT活用実態調査(2025年)」の数字を確認します(出典:株式会社野村総合研究所(NRI)、2025-11-25、https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20251125_1.html)。

数字を読む前に、対象範囲を押さえます。ここを飛ばすと解釈を必ず誤ります。

項目 内容
調査対象 日本国内に本社を持つ売上高上位企業 約3,000社
有効回答 517社(回収率 約17%)
回答者 CIO・IT担当役員・経営企画担当役員・IT部門長 等
調査時期 2025年9月
回収方法 郵送で協力依頼を送付し、Webで回収
実施主体 株式会社野村総合研究所(NRI)
公表日 2025年11月25日

まず生成AIの導入状況です。「導入済み」と回答した企業は57.7%。経年で見ると2023年度33.8%、2024年度44.8%、2025年度57.7%と、3年連続で伸びています(いずれも分母は各年度の有効回答企業、2025年度はn=517)。

一方で「今後検討したい」は15.2%にとどまり、前年比4.8ポイントの低下でした。導入済み57.7%と検討中15.2%を合わせた「導入済み+検討中」は76%です。検討層が減りながら導入層が増えているので、検討していた企業が実際に導入へ移ったと読むのが自然ですが、この移行を追跡したパネルデータではないため、同一企業の推移として断定はできません。

壁は技術ではなく人:課題の1位が悪化している

生成AI活用の課題を見ます。ここから分母が変わります。以下は生成AI関連設問に回答した企業 n=340 が母数で、複数選択です。

  • リテラシーやスキルが不足している:70.3%(前年度65.4%から4.9ポイント増)
  • リスクを把握し管理することが難しい:48.5%

最上位はリテラシー・スキル不足で、しかも前年度より4.9ポイント悪化しています。導入率が33.8%→44.8%→57.7%と上がっているのと同じ期間に、人の側の課題感は下がるどころか上がった、というのがこの調査の一番重い事実です。

複数選択設問なので合計は100%になりません。70.3%と48.5%を足す、あるいは「1位が2位の1.4倍」といった比率で語ることには意味がありません。項目間の順位を見る以上の解釈は避けるべきです。

IT予算とレガシー:投資の勢いはどう変わったか

2025年度のIT予算については、増加した企業が49.0%、減少した企業が7.5%でした(n=517、2024年度実績との比較)。増加企業の割合は前年度の59.0%から10.0ポイント低下しています。減少企業は7.5%と少数のままなので、「削減に転じた」のではなく「増やす企業が減った」という変化です。

2026年度の見通しは、増加が47.5%、減少が7.8%(n=517、2025年9月時点の回答)。増加見込みは2025年度実績の49.0%とほぼ横ばいで、勢いが再加速する兆候は出ていません。

開発手法では、ノーコード/ローコード開発の導入率が51.0%(前年比4.9ポイント増、n=517)。過半数に達しました。

レガシーシステムの残存率は、アプリケーション47.3%(2021年度比18.4ポイント減)、基盤系48.2%(同13.7ポイント減)です。ただしこの設問の分母は n=311 で、全体517社ではありません。4年で相応に減ってはいるものの、依然として約半数に残っています。

継続利用するうえでの課題は、n=337の複数選択で次の2項目が上位でした。

  • ブラックボックス化や有識者の不足:51.6%
  • ベンダーサポートの終了:50.1%

上位2つとも、技術的な性能の問題ではなく「分かる人がいない」「支えてくれる相手がいなくなる」という人と体制の問題です。生成AIの課題1位がスキル不足だったのと同じ構図が、旧システム側にも出ています。

IT人材については、分母 n=331 で次の数字が出ています。ITストラテジスト(IT企画を経営に接続する役割)は必要度71.9%に対し保有率29.6%。プロジェクトマネージャーは必要度80.1%です。

職種 必要度 保有率
ITストラテジスト 71.9% 29.6%
プロジェクトマネージャー 80.1% 本文に記載なし

プロジェクトマネージャーの保有率はリリース本文に記載がありません。したがって、ITストラテジストと同じように必要度と保有率のギャップとして並べて論じることはできません。表にも「記載なし」とそのまま書いています。

この調査の限界と、書けないこと

数字を使う側として、確認できなかった点と不都合な点を先に出します。

  • 調査対象は「日本国内に本社を持つ売上高上位企業 約3,000社」で、有効回答は517社です。中小企業は母集団に含まれていません。この数値を中小企業の実態として転記することは事実誤認になります。あくまで大企業のベンチマークです。
  • 回答者はCIO・IT担当役員・経営企画担当役員・IT部門長など、IT統括部門の管理層に限られます。現場の利用実態ではなく、管理側の認識ベースの回答です。導入済み57.7%も、現場で使われている割合ではありません。
  • 郵送で協力依頼を送りWebで回収する方式で、約3,000社中517社(回収率約17%)。IT活用に関心の高い企業ほど回答しやすい自己選択バイアスが残ります。導入率は実態より高めに出ている可能性があります。
  • 設問ごとに分母が異なります。全体n=517に対し、生成AIの課題はn=340、レガシー継続利用の課題はn=337、IT人材はn=331、レガシー残存率はn=311です。すべてを517社に対する割合として扱うと分母の取り違えになります。
  • 生成AI活用の課題(70.3%/48.5%)とレガシー継続利用の課題(51.6%/50.1%)は複数選択です。合計は100%になりません。
  • 「導入済み」「レガシーシステム」の判定基準は回答企業の自己申告で、厳密な定義がリリース本文に記載されていません。全社展開なのか一部部門の試験利用なのかは区別されていません。57.7%の中身の深さは、この調査からは読めません。
  • 公表されているのは調査結果の抜粋です。設問文の全文、選択肢の一覧、業種別・規模別の内訳は本文からは確認できません。

利害関係についても明示します。この記事は株式会社野村総合研究所(NRI)自身による発表を扱っており、同社はITコンサルティングおよびシステム開発を提供する事業者です。つまり、企業のIT投資や生成AI活用が拡大することを需要とする立場にある発信元が、自社の事業領域について自ら調査し公表しています。加えて、この記事を掲載している「AIの鬼」は、企業のAI導入支援を事業とする株式会社TOEが運営しています。当社も同様に、AI活用が広がることで利益を得る立場です。数字の出どころと書き手の立場を分けて判断していただくために、限界を先に並べました。

読者への意味:中小企業はこの数字をどう使うか

中小企業の経営者・情報システム担当が、この大企業向け調査から受け取れる点は4つあります。いずれも「自社の数値」としてではなく「比較対象」としての使い方です。

第一に、教育・定着に予算を割く根拠になります。大企業ですら導入済みは57.7%止まりで、残る壁の1位は技術ではなくリテラシー・スキル不足70.3%、しかも前年より4.9ポイント悪化しました。人と体制を整えないまま導入だけ進めれば同じ壁に当たる、という先行事例として読めます。ツールを入れる前に自社の判断基準を決める順序については自社の評価基準を先に決めるで扱っています。

第二に、営業計画の材料になります。IT予算を増やす大企業は59.0%から49.0%へ10.0ポイント低下し、2026年度見通しも47.5%と横ばいです。取引先の大企業がIT投資の増額を絞る局面は、下請け・ベンダー側から見れば受注環境が引き締まる兆候です。減少企業は7.5%と少ないので「市場が縮む」ではなく「伸びが鈍る」と読むのが妥当です。

第三に、ノーコード/ローコード導入率51.0%は、内製で小さく作る流れが大企業でも過半数に達したことを示します。IT人材の薄い中小企業が、いきなり外注する前にノーコードでの内製を検討する後押しになります。どの業務から手をつけるかの整理は中小企業が最初にAI化すべき業務の見つけ方にまとめました。

第四に、ITストラテジストが必要度71.9%に対し保有率29.6%という数字は、大企業でもIT戦略人材が足りていないことを示しています。「自社にIT戦略を描ける人がいない」ことを異常事態と捉える必要はなく、外部活用を前提に体制を設計してよい、という判断材料になります。少人数での立ち上げ方は少人数チームでのAI導入を参照してください。

なお、中小企業側の実態を数字で見たい場合は、この調査ではなく中小企業を母集団とした別の調査を当たるべきです。本メディアでは中小企業のAI活用実態調査を別途扱っています。

TOEの読み筋:導入率と課題感が同時に上がる意味

ここから先は当編集部の解釈です。TOEでは未実施の観点を含みます。

導入率が44.8%から57.7%へ上がった同じ期間に、スキル不足の課題感が65.4%から70.3%へ上がっている。この同時進行を、当編集部は「導入して初めて不足が見える」現象だと読んでいます。使う前は課題として認識されず、実際に配ってみて初めて、社内で使える人と使えない人の差が課題として言語化される。だとすれば70.3%という数字は導入の失敗を示すものではなく、導入が実務段階に入った企業が増えた結果として理解できます。

同じ構図がレガシー側にも出ています。継続利用の課題の1位は「ブラックボックス化や有識者の不足」51.6%で、2位が「ベンダーサポートの終了」50.1%。新しい技術でも古い技術でも、詰まる場所は「分かる人がいるか」に集約されています。ITストラテジストの必要度71.9%対保有率29.6%というギャップも、同じ問題の人材側の表れだと見ています。

ただしこれらは調査本文が因果関係として示したものではなく、当編集部が数字の並びから立てた仮説です。TOEでは、この仮説を検証する定量調査は実施していません。支援先での実測値が取れた時点で、この読み筋が正しかったかを本メディアで報告します。

まとめ

  • 大企業でも生成AI導入済みは57.7%(n=517、2025年9月調査、売上高上位企業約3,000社に依頼・回収率約17%)。経年では2023年度33.8%→2024年度44.8%→2025年度57.7%。
  • 活用の課題1位はリテラシーやスキルの不足70.3%(n=340、複数選択)で、前年度65.4%から4.9ポイント悪化。2位はリスクの把握・管理の難しさ48.5%。壁は技術ではなく人と体制の側にある。
  • IT予算を増やす企業は59.0%から49.0%へ10.0ポイント低下、2026年度見通しも増加47.5%で横ばい。減少企業は7.5%(2026年度見通しは7.8%)にとどまり、縮小ではなく伸びの鈍化と読むのが妥当。
  • ノーコード/ローコード導入率は51.0%で過半数、ITストラテジストは必要度71.9%に対し保有率29.6%。大企業でもIT戦略人材は足りていない。プロジェクトマネージャーの保有率はリリース本文に記載がなく、同じ形では比較できない。
  • 調査対象に中小企業は含まれず、設問ごとに分母がn=517/340/337/331/311と異なる。中小企業は自社の数値としてではなく、大企業のベンチマークとしてのみ使うこと。発信元のNRIはITコンサルティング・システム開発の提供者であり、当メディアを運営するTOEもAI導入支援の提供者である。