結論から書きます。生成AIを全社または一部部署で活用する企業は43.4%(n=496社、2025年調査)。一方でAIエージェントを利用中と答えたのは3.3%ですが、この分母は496社ではなく生成AI活用企業215社です。二つの数字は同じ土俵に並んでいません。
一次資料の実測:誰に聞いて、何が出たのか
株式会社矢野経済研究所が2025年12月19日に公表した「国内生成AI/AIエージェントの利用実態に関する法人アンケート調査」の数字を確認します(出典:矢野経済研究所、2025-12-19、https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3991)。
数字を読む前に、対象範囲を押さえます。ここを飛ばすと解釈を必ず間違えます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査対象 | 国内民間企業500社 |
| 有効回答 | 496社(2025年調査) |
| 法人アンケート実査時期 | 2025年6月末〜9月初 |
| 対象業種 | プロセス製造業、加工組立製造業、サービス業、流通業、金融業 |
| 実施主体 | 株式会社矢野経済研究所 |
| 公表日 | 2025年12月19日 |
生成AIの活用状況は次の通りです。分母はいずれも有効回答496社です。
| 回答区分 | 割合(2025年調査、n=496) |
|---|---|
| 全社的に活用している | 11.3% |
| 一部の部署で活用している | 32.1% |
| 活用している(上記合計) | 43.4% |
| 現在は活用していないが、将来的には活用したい | 23.4% |
経年で見ると、上がり方がはっきりしています。ただし後述する通り、有効回答数は年ごとに異なります。
| 調査年 | 全社的に活用 | 一部の部署で活用 | 合計 | 有効回答 |
|---|---|---|---|---|
| 2023年調査 | 1.3% | 8.6% | 1割未満 | 538社 |
| 2024年調査 | 4.0% | 21.8% | 25.8% | 449社 |
| 2025年調査 | 11.3% | 32.1% | 43.4% | 496社 |
2024年から2025年にかけての伸びは、全社的に活用が+7.3ポイント、一部の部署で活用が+10.3ポイントです。
そしてAIエージェントです。ここが本題であり、最も誤読されやすい箇所でもあります。
| 回答区分 | 割合(2025年調査、n=215:生成AI活用企業ベース) |
|---|---|
| 利用中 | 3.3% |
| 導入検討中 | 13.5% |
| 関心あり(情報収集中) | 49.3% |
繰り返しますが、この3つの数字の分母は有効回答496社ではありません。生成AIを活用していると回答した215社です。つまり「すでに生成AIを使っている企業の中ですら、AIエージェントを利用中なのは3.3%」という読み方になります。全企業に対するAIエージェント利用率としてこの数字を引用すると、それは元の調査が言っていないことを言うことになります。
発信元の立場:この調査は誰が出したものか
この調査を公表したのは矢野経済研究所であり、同社は市場調査レポートを有償で販売する調査会社です。この記事の題材となったプレスリリースは、同社が販売する調査レポートの一部を公開したものにあたります。したがって数字そのものは自社製品の宣伝ではありませんが、公開されている範囲は同社の販売判断で選ばれた部分であり、リリース本文に載っていない設問・クロス集計・回答の内訳は読者側から検証できません。この点は数字の出どころを判断するうえで踏まえておく必要があります。
一方で、生成AIツールやAIエージェント製品のベンダー自身が自社導入実績を発表しているケースとは性質が異なります。調査会社が第三者として集計している点は、ベンダー発表よりは利害から遠い位置にあると言えます。ただし「遠い」だけであって、無条件に中立とみなすものではありません。
読者への意味:様子見は多数派ではなくなった、が
中小企業の経営者・情報システム担当にとって、この調査から取り出せる意味は3つです。
- 生成AIについて「まだ様子見でいい」という判断は、少なくともこの調査の対象範囲では多数派ではなくなりました。活用中43.4%に対し、活用していないが将来的には活用したいが23.4%です。
- AIエージェントは、この調査時点では先行事例が出そろっていません。生成AI活用企業215社の中でも利用中3.3%、検討中13.5%、そして約半数の49.3%が情報収集段階です。
- したがって現実的な打ち手の順番は、話題のAIエージェントを急いで入れることではなく、まず生成AIを部署単位で定着させることになります。AIエージェントは準備期間と位置づけるのが、この数字と整合します。
AIエージェントという言葉そのものの定義がまだ揺れている点も、この数字の背景にあると考えられます。何を指すのかはAIエージェントとは何かで整理していますが、定義が定まっていない対象の利用率は、回答企業ごとの解釈に左右されます。
この調査の限界:一般化してはいけない点
不都合な点を先に書きます。以下を踏まえずにこの数字を社内で使うと、事実誤認になります。
- 調査対象の企業規模(従業員数・売上規模)がリリース本文に明示されておらず、中小企業に限定した調査ではありません。「中小企業の実態」として一般化するのは誤りです。自社規模に引き直す解釈が必要です。
- 対象業種はプロセス製造業・加工組立製造業・サービス業・流通業・金融業に限られます。建設・医療・公共などは含まれていません。
- AIエージェント関連の設問の分母は有効回答496社ではなく、生成AIを活用していると回答した215社です。全企業に対する利用率ではありません。
- 法人アンケートの実査時期は2025年6月末〜9月初で、公表は2025年12月です。生成AI領域は変化が速く、これらの数値は実査時点の状況を示すものです。現在との間にタイムラグがあります。
- 有効回答数が調査年ごとに異なります(2023年538社/2024年449社/2025年496社)。経年比較はパネルの同一性が担保されたものではありません。同じ企業群を追いかけた数字ではない点に注意が必要です。
- 調査手法はアンケートのほか、直接面談・電話/e-mailヒアリング・文献調査が併用されています。どの数値がどの手法によるものかの切り分けは、リリース本文からは判別できません。
- 生成AI「活用」の定義(利用頻度や範囲の基準)がリリース本文からは不明で、回答企業の自己申告に依存します。月に1回誰かが使っている状態と、業務フローに組み込まれている状態が、同じ「活用している」に含まれている可能性があります。
最後の点は特に重要です。43.4%という数字は「導入した」に近い意味であって、「成果が出ている」を意味しません。この調査から成果の有無は読み取れません。
TOEの読み筋:まず部署ひとつを完了させる
ここからは株式会社TOEの解釈です。前提として、TOEではこの調査の追試や、AIエージェントの本番業務への全社導入は未実施です。以下は数字の読み筋であり、実測に基づく効果の主張ではありません。
TOEが注目するのは、利用中3.3%ではなく情報収集中49.3%のほうです。生成AIをすでに使っている企業の約半数が、AIエージェントについて「関心はあるが動いていない」状態で止まっています。ここで起きていることは、おそらく技術の問題ではありません。任せる業務の範囲が社内で決まっていないから、検討が情報収集で止まる、という順序だと見ています。
エージェントは「人がやっている手順を代わりに回す」仕組みです。手順が言語化されていない業務は、そもそも渡せません。この調査の数字は、多くの企業が生成AIを部署単位で使い始めた段階にあり、業務手順の棚卸しがまだ済んでいないことと整合します。
したがってTOEの読み筋は、AIエージェントの製品比較を急ぐより、生成AIで日次業務の手順を書き出す工程を先に終わらせるほうが順序として正しい、というものです。具体的には、まず部署をひとつ選んで生成AIの利用を定着させ、そのなかで「毎回同じ手順で処理している作業」を洗い出す。この洗い出し結果が、後にエージェントへ渡す仕様そのものになります。最初の一歩の踏み出し方は中小企業のAI導入、最初の一歩をどう決めるかで整理しています。
ただしこの読み筋には反証可能性があります。手順が言語化されていなくても使えるエージェント製品が普及すれば、前提は崩れます。ツール側の変化についてはAIエージェントツールの進化で追っています。TOEはこの前提が崩れる可能性を織り込んだうえで、現時点では順序を守る側を採ります。
もう一点、経年比較の扱いについてです。2023年の1割未満から2025年の43.4%という伸びは大きく見えますが、有効回答企業が毎年入れ替わっている以上、これは「同じ企業が変わった」ではなく「その年に回答した企業群の分布が変わった」を示すものです。伸びの方向は信頼できても、伸び幅そのものを自社の計画数値に転用するのは避けるべきだとTOEは考えます。
まとめ
- 生成AIの活用は43.4%(全社11.3%+一部部署32.1%、n=496社、2025年調査、実査2025年6月末〜9月初)。様子見はこの調査の対象範囲では多数派ではありません。
- AIエージェントは利用中3.3%・検討中13.5%・情報収集中49.3%ですが、分母は496社ではなく生成AI活用企業215社です。全企業ベースの利用率として引用してはいけません。
- 調査対象の企業規模は明示されておらず、対象業種も5業種に限られます。「中小企業の実態」として一般化するのは事実誤認です。
- 有効回答数が年ごとに異なり(538社/449社/496社)、経年比較はパネルの同一性が担保されていません。伸びの方向は読めても、伸び幅の転用は避けるべきです。
- TOEの読み筋は、AIエージェントの製品選定より先に、生成AIを部署単位で定着させて業務手順を書き出す工程を終わらせること。ただしTOEではこの調査の追試もエージェントの全社導入も未実施であり、これは数字の解釈であって効果の実証ではありません。