結論から書きます。中小企業のAI導入率は20.4%(n=1,647)で、その中身は生成AI82.6%(n=322)に偏り、画像認識11.2%・需要予測8.1%・異常検知4.3%と現場系AIはほぼ手つかずです。そして企業が最も不足を訴えたのは技術でも予算でもなく、成功事例の情報(不足83.3%、n=1,635)でした。

この調査は誰が何を測ったのか

独立行政法人中小企業基盤整備機構 総合情報戦略課が2026年3月1日に公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」の調査結果ポイントを読みます。業務委託先は株式会社東京商工リサーチです(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 総合情報戦略課(業務委託先:株式会社東京商工リサーチ)、2026-03-01、https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_point.pdf)。

まず調査範囲を押さえます。数字を読む前に分母を確認するのが、この種の調査で最も事故を防ぐ手順だからです。

項目 内容
対象 全国の中小企業10,000社(中小企業基本法の中小企業・小規模企業の定義に基づく)
方法 Webアンケート
調査期間 2025年(令和7年)11月17日〜12月12日
有効回答 設問により1,647/1,638/1,635/1,632/1,631/1,628/1,596/1,594/1,591/1,578
一部設問の分母 AI導入済み企業のみ(n=322/n=331)
実施主体 中小企業基盤整備機構(委託先:東京商工リサーチ)

なおこの記事の題材は、中小企業基盤整備機構自身による発表です。同機構は中小企業向けの支援策を提供する公的機関であり、後述する「公的支援ニーズ」の設問は、自機関の事業領域を自ら調査した結果にあたります。数字の出どころとして、その立場は読者側で織り込んでおく必要があります。

AI導入率20.4%、前向きな企業を足しても39.0%

一次資料の実測値です。AIを「全社的に導入している」と「一部の業務で導入している」の合計が20.4%(n=1,647)。これに「導入を検討している」18.6%を足すと、AI導入に前向きな企業は合計39.0%になります(同一調査・同一分母)。

裏返すと、6割の中小企業は検討にすら入っていません。ここは煽るところではなく、事実として押さえるべき前提です。「周りはもう入れている」という肌感覚は、少なくともこの調査の範囲では裏づけがありません。

  • 導入済み:20.4%(n=1,647、2025年11月17日〜12月12日)
  • 検討中:18.6%(同分母)
  • 導入済み+検討中:39.0%(同分母)

入っているのは生成AIだけ、という偏り

導入済み企業に限った内訳(n=322。分母はAI導入済み企業のみで、中小企業全体ではありません)を見ると、偏りがはっきりします。

導入済みAIサービス 割合(n=322、AI導入済み企業ベース)
生成AI 82.6%
音声認識・音声対話AI 29.8%
画像認識AI 11.2%
需要予測AI 8.1%
異常検知AI 4.3%
その他 7.5%

「AIを導入した」と答えた企業の8割超は、実質的に生成AIの利用を指しています。一方で、画像認識11.2%、需要予測8.1%、異常検知4.3%と、現場のデータを扱うAIはほとんど動いていません。

この偏りは、業務部門別の導入率とも符合します(図表3に基づく数値。本文に部門別のn数の明記はなく、AI導入済み企業ベースと読める記載です)。

業務部門 AI導入率
総務・管理 68.3%
営業・販売・サービス 60.3%
経営・企画 58.5%
製造・生産 34.9%

文章を書く・要約する・調べるという生成AIの得意領域が、そのままバックオフィスの導入率の高さになっています。製造・生産の34.9%という低さは、能力不足というより、まだ誰も手をつけていないという意味に近いと読めます。

導入目的は業務効率化に一極集中、しかし伸びている企業は違うものも見ている

導入目的(n=331、AI導入済み企業のみ、複数回答)では、「業務効率化/作業時間の短縮」が87.0%(288件)。2位の「品質向上」32.3%(107件)と50ポイント以上の差がついています。目的はほぼ一点に集中しているということです。

興味深いのは、直近3年間の売上推移で層別したときの「品質向上」の挙がり方です(n=331)。

直近3年間の売上推移 「品質向上」を目的に挙げた割合
増収傾向 38.6%(127社中49件)
横ばい 29.0%(131社中38件)
減収傾向 26.4%(72社中19件)

増収傾向の企業と減収傾向の企業で12.2ポイントの差があります。ただしこれは相関の提示であり、AIの導入目的が増収をもたらしたという因果関係は示されていません。層別のセル件数も最小72社(減収傾向)と小さく、比率の振れ幅は大きく見ておくべきです。

導入効果の側でも近い傾向が出ています。効果として「付加価値創出」を挙げた割合は、AI導入企業22.3%に対しIT導入企業7.4%と約15ポイントの差(それぞれAI導入済み企業/IT導入済み企業が分母。この設問のn数は本文に明記なし)。AIの導入効果の1位はやはり「業務効率化/作業時間の短縮」83.2%で、以下「人手不足対応」33.9%、「品質向上」30.6%と続きます。

足りないのは技術ではなく事例情報

全回答企業ベースの設問で、最も強く不足が出たのは情報でした。

  • 「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に当てはまらない(あまり+全く):83.3%(n=1,635)
  • 「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」の不充足:79.8%(n=1,631)
  • 「社内においてIT・AIの必要性への理解がある」の充足(とても+やや):45.1%(n=1,638)

必要とされる公的支援も同じ方向を向いています(設問ごとに有効回答数が異なり、いずれも全回答企業ベース)。

必要と答えた公的支援 割合 n
導入費用などの助成 77.9% 1,628
導入事例などの情報提供 70.5% 1,594
従業員向けの教育・研修 67.7% 1,596
試行導入などの機会 61.3% 1,578
専門家の派遣や導入相談 59.8% 1,591

カネに次ぐのが事例情報です。ツールの性能不足が止めているのではなく、「うちと同じ規模・同じ業種で、実際に何がどう変わったのか」が見えないことが止めている、という構図が読み取れます。

この調査の限界

不都合な点も含めて明記します。

  • 本資料は全体報告書ではなく「調査結果のポイント」(A4数ページの要約版)です。業種別内訳や設問の詳細な選択肢・集計表は掲載されていません。図表1(調査対象業種の構成比)や図表2・3・7のグラフ数値は図版のみで、本文テキストから読み取れない箇所があります。
  • 10,000社への配布に対し有効回答は約1,600社で、回収率は2割弱です。Webアンケートである以上、そもそもデジタルやAIに関心の高い企業へ回答が偏る自己選択バイアスがあり得ます。導入率20.4%は、実態よりやや高めに出ている可能性を含んで読むべき数字です。
  • 導入済みAIサービス(n=322)と導入目的・売上推移別クロス(n=331)は、分母がAI導入済み企業のみです。中小企業全体の割合ではありません。ここを取り違えると「中小企業の82.6%が生成AIを使っている」という誤読になります。
  • 業務部門別のAI導入率(総務・管理68.3%など)は図表3に基づく数値で、本文にn数の明記がありません。
  • 売上推移別の「品質向上」の差は相関にとどまり、因果は示されていません。
  • 「AI」「IT」の範囲は本調査独自の定義(AI=AI技術を用いたサービス。例:画像認識・音声認識・生成AIなど/IT=業務効率化や生産性向上を目的としたITツール・サービス。例:RPAなど)です。他調査の導入率と単純比較はできません。

読者にとって何を意味するか

この調査は中小企業そのものが対象なので、読者の会社に直結します。実務的な含意は3つです。

第一に、入口はバックオフィスで正しいということ。総務・管理68.3%、営業・販売・サービス60.3%という数字は、そこが最も投資対効果を出しやすい場所であることの傍証です。議事録、日報、見積の下書き、問い合わせ返信といった文章仕事から入るのは、奇をてらわない定石です。具体的な着手順の考え方は中小企業が最初にAI化すべき業務の見つけ方にまとめています。

第二に、製造・生産34.9%、異常検知4.3%という数字は、裏を返せば空白地帯だということ。外観検査や予知保全、需要予測は導入コストも難易度も高いぶん、同業他社もまだやっていません。効率化の先で差をつけたい会社にとっては、ここが数少ない差別化余地です(需要予測AIは繁忙期の山をどこまで当てられるか)。

第三に、動く順番です。83.3%が事例情報の不足を訴えている状況で、いきなりベンダー選定から入るのは順序が逆です。自社と同規模・同業種の事例を集めてから、道具を選ぶ。少人数での進め方は少人数チームでAIを定着させる進め方、道具の選び方はAIツールの選び方が参考になります。

TOEの読み筋

以下はTOEの見立てであり、この調査に関するTOEでの追試や検証は未実施です。

読み筋は「87.0%対32.3%の差は、そのまま伸びしろの差になる」というものです。導入目的が業務効率化に一極集中している状態は、AIを人件費の代替としてしか見ていない状態に近い。効率化は上限が読める投資で、削れる時間が尽きればそこで止まります。一方で、増収傾向の企業が品質向上を38.6%挙げている事実は、同じAI予算を「減らす」ではなく「良くする」に振っている会社が一定数いることを示します。繰り返しますが、これは相関であって因果ではありません。それでも、自社の導入目的を書き出したときに効率化しか並ばないなら、一項目でも品質側の目的を立てておく価値はあると考えています。

もう一点。「事例が足りない」という83.3%は、実はベンダー側の説明責任の話でもあります。導入率や機能一覧ではなく、どの業務が何分から何分になったのかという粒度の話を出せるかどうか。TOEとしても、自社の実測値を出す形で応える以外にないと考えています。

まとめ

  • AI導入率は20.4%(n=1,647、全国の中小企業10,000社へのWebアンケート、2025年11月17日〜12月12日)。検討中18.6%を足しても前向きな企業は39.0%
  • 導入済み企業(n=322)の82.6%は生成AI。画像認識11.2%・需要予測8.1%・異常検知4.3%と現場系AIはほぼ未着手で、製造・生産部門の導入率34.9%と符合する
  • 導入目的は業務効率化87.0%(n=331)に一極集中。ただし増収傾向企業は品質向上を38.6%挙げ、減収傾向26.4%と12.2ポイントの差がある(相関であり因果ではない)
  • 不足しているのは技術より情報。成功事例の情報が不足83.3%(n=1,635)、公的支援ニーズでも導入事例の情報提供70.5%が費用助成77.9%に次ぐ
  • 本資料は要約版で業種別内訳がなく、回収率は2割弱、n=322/331の設問は分母がAI導入済み企業のみ。発信元は支援策の提供者でもあるため、支援ニーズの数字はその立場を踏まえて読む