導入している中小企業はまだ2割程度

「AIを何かに使わなければ」と感じている経営者は増えていますが、実際に手を動かしている企業はまだ少数派です。独立行政法人中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(全国の中小企業1万社を対象としたWebアンケート。調査期間は2025年11月17日〜12月12日)によると、AIを「全社的に導入している」企業は3.6%、「一部の業務で導入している」企業は16.8%で、合計しても導入率は20.4%にとどまります(出典:中小企業基盤整備機構、https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_point.pdf)。

裏を返せば、8割近くの中小企業はまだ導入予定がないか検討段階です。同調査では、導入済みの企業に「導入を検討している」企業(18.6%)を合わせても、AI導入に前向きな企業は全体の39.0%にとどまるとされています。

どの業務から入っているのか — データが示す傾向

中小機構の調査では、業務分野別のAI導入率も集計されています。結果は次の通りでした(出典:同上)。

  • 総務・管理部門(バックオフィスに関する業務分野):68.3%
  • 営業・販売・サービス部門(顧客対応、フロントに関する業務分野):60.3%
  • 経営・企画部門(経営の意思決定に関する業務分野):58.5%
  • 製造・生産部門(開発、調達、在庫管理を含む業務分野):34.9%

最も多いのは総務・管理部門で、次いで営業・販売・サービス部門です。製造・生産部門は現場の物理的な工程が絡むため、他の部門に比べて導入が遅れています。これは「AIをまず入れるなら、紙とパソコンで完結する事務作業から」という傾向を裏付ける数字です。

導入済み企業が実際に使っているAIサービスの内訳(n=322)では、「生成AI」が82.6%と圧倒的に多く、次いで「音声認識・音声対話AI」が29.8%でした。画像認識(11.2%)や需要予測(8.1%)といった専門性の高いAIはまだ少数です。つまり多くの企業が最初に触っているのは、ChatGPTやGeminiのような汎用の生成AIだということになります。

導入目的と効果は「効率化」に集中している

同調査でAI導入の目的を尋ねたところ(n=331、複数回答)、「業務効率化/作業時間の短縮」が87.0%で圧倒的な1位でした。以下、「品質向上」32.3%、「人手不足対応」31.7%、「付加価値創出」24.5%、「エラー・ミス軽減」24.2%、「売上拡大・顧客獲得」22.1%、「コスト削減」14.8%と続きます。1位と2位の間に50ポイント以上の差があることからも、多くの企業がまず「時間を減らすこと」を目的にAIへ手を伸ばしている実態がわかります。実際に得られた効果についても「業務効率化/作業時間の短縮」が83.2%でトップでした。

興味深いのは、「付加価値創出」の効果についてAI導入企業の22.3%が実感していると答えており、これは従来型のIT導入(7.4%)の約3倍にあたる点です。単なる作業の置き換えだけでなく、これまでのITツールでは得にくかった価値を感じている企業が一定数いることがわかります。

実例:見積もり作成が20分に短縮された製造業

数字の裏付けとして、経済産業省が公表した事例を株式会社GEMBAコンサルティングが紹介している静岡県のプラスチック加工会社・プラポートの取り組みが参考になります(出典:GEMBAコンサルティング「製造業の革新的技術!中小企業でもできる図面から自動で見積もりを出すAI」https://gemba-c.co.jp/estimate-ai/)。同社は図面から加工難易度を判断し見積り金額を算出するAIシステムを開発し、従来約1時間かかっていた見積もり作成時間を約20分に短縮したと紹介されています。時間換算で約66%の削減にあたります。

別の取材記事(つなぐメディア「コネクト」https://connect.bigadvance.jp/success/1826/)でも、同社の営業課課長代理が「1日400枚の見積もりをほぼ1人でこなせるようになった」とコメントしており、回答スピードの向上が受注機会を逃さないことにつながったと述べています。見積もりという、毎日繰り返される定型的だが判断も伴う業務が、AI化の起点になった例です。

「何から始めればいいかわからない」という壁

複数の調査に共通しているのは、多くの企業が技術的な難しさではなく「どこから手をつけるか」で止まっているという点です。中小機構の調査でも、AI・IT導入にあたって不足していると感じる情報として「成功事例や活用事例などの情報」を挙げた企業が83.3%と最も多く、必要な公的支援として「導入事例などの情報提供」を求める声が70.5%に上りました。

この結果から言えるのは、業務そのものの複雑さよりも「自社に近い規模・業種の事例がないと判断できない」という情報不足が、着手を遅らせる主因になっているということです。裏返せば、同業他社や近い規模の企業の具体的な事例に触れられれば、着手のハードルは下がる可能性があります。実際、AIを導入した企業に限れば「生成AI」の利用率は8割を超えている一方、社内の理解度について「ある程度は理解がある」と答えた企業は45.1%にとどまっており、ツールを使い始めた企業であっても、社内全体への浸透にはまだ時間がかかっている段階だとうかがえます。

では自社では何から始めるか

ここまでのデータを踏まえると、最初の一歩を探す際に有効な視点は「紙とパソコンで完結し、かつ毎週・毎日繰り返している業務はどれか」を洗い出すことです。総務・管理部門での導入が最も進んでいるのは、現場の機械や在庫といった物理的な制約が少なく、文章の作成・要約・整理といった生成AIが得意とする作業が多いためだと考えられます。議事録の下書き、メール文面の作成、問い合わせへの一次回答案の作成など、担当者が「毎回同じような手順で時間を使っている」と感じている作業がないか、まず洗い出してみる価値はあります。

ただし、どの業務も「AIに全部任せられる」わけではありません。中小機構の調査でも「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に当てはまらないと答えた企業が8割を超えており、まずは小さな業務で試し、効果と限界の両方を社内で確認しながら範囲を広げていくやり方が、現状のデータからは妥当だと言えそうです。