社員10人以下の会社には、たいてい専任のIT担当者がいません。経理も総務も営業も、社長や数名の社員が兼務しているというケースが多いところです。そういう会社が「AIを導入する」というとき、大企業向けの導入ガイドをそのまま当てはめても現実的ではありません。
この記事では、専任担当者がいない前提で、実際に手を付けられる順番を段階に分けて整理します。
段階1:担当者を1人決める(全員で使おうとしない)
最初のつまずきは、「全社員で一斉にAIを使い始めよう」とすることです。人数が少ない会社ほど、1人ひとりの業務内容が違うため、全員が同じツールを同じように使えるとは限りません。
まずは1人、AIツールに触れる担当者を決めるところから始めるという進め方があります。経営者本人でも、事務作業を担当している社員でも構いません。ポイントは、その担当者が「自分の業務のどこかにAIを使ってみる」役割を担い、うまくいった使い方を後から他の社員に共有する流れを作ることです。
段階2:1つの業務だけで試す
担当者が決まったら、いきなり複数の業務にAIを広げるのではなく、1つの業務に絞って試します。候補になりやすいのは、メールやチャットの文面作成、議事録の要約、見積書や請求書のたたき台作成など、毎週繰り返し発生していて、かつ多少の間違いがあっても後で人が確認できる業務です。逆に、法的な判断や金額の最終確認が必要な業務は、最初の対象から外したほうが無難です。
1つの業務に絞る理由は、効果を測りやすくするためです。「AIを入れて何となく楽になった」ではなく、「見積書のたたき台にかかっていた時間が30分から10分に減った」というように、作業時間の変化を具体的に把握できると、次の判断がしやすくなります。
業務を選ぶときは、担当者の負担感だけでなく、間違いが起きたときの影響範囲も考えておく必要があります。たとえば取引先への送付前に人が目を通す工程が残っている文面作成であれば、多少の誤りがあってもその場で修正できます。一方、在庫数や金額をそのまま自動反映するような業務は、確認の工程を挟まないままAIに任せると、間違いに気づきにくくなるところです。最初の対象業務は、後工程に人の確認が残っているものを選ぶという考え方が安全です。
段階3:無料枠でPoCする
多くのAIツールには無料プランがあります。ChatGPTやGemini、Claudeはいずれも無料で使える範囲があり、まずはこの無料枠で試す(PoC=Proof of Concept、実際に効果があるかを小さく検証すること)というのが現実的な始め方です。
無料枠で試す期間は、2〜4週間程度を目安にするという考え方があります。この間に、段階2で決めた1つの業務について、実際の業務データに近い内容を入力し、出力をそのまま使えるか、手直しが必要かを記録しておきます。無料枠には利用回数やファイルサイズの制限があることが多いため、業務量によっては早い段階で上限に達することもあります。その場合は、そこで初めて有料プランへの切り替えを検討する材料になります。
段階4:月額数千円のプランで本格導入する
PoCで効果が確認できたら、有料プランへの切り替えを検討します。個人向けのAIチャットツールであれば、ChatGPT Plusが月額20ドル(2026年7月時点、日本円で目安3,000円程度)というように、1人あたり月数千円の範囲で使えるプランが中心です。社員数人分をまとめて契約しても、月額で1万円台に収まる規模感になります。
このタイミングで、使う人数を段階2・3で効果があった担当者に絞るか、他の社員にも広げるかを決めます。人数を広げる場合は、1人あたりの月額料金×人数で年間コストを見積もり、削減できる作業時間の見込みと照らし合わせて判断するという進め方が考えられます。
社員10人以下の会社では、情報システム部門が個々のツールの契約状況を一元管理していないことも多いところです。担当者が個人のクレジットカードでツールを契約し、退職時に契約情報が引き継がれないまま止まってしまうという事態も起こり得ます。会社名義の請求先を用意し、契約しているツールと担当者を1枚のメモにまとめておくと、後々の管理が楽になります。
導入担当者からよく聞かれるつまずきの1つは、無料枠で良い手応えを得たあと、効果を数字で確認しないまま複数の業務・複数のツールに一気に広げてしまうことです。ツールごとに料金体系や無料枠の条件が異なるため、気づかないうちに複数の有料プランが並行して動いていて、使われていないものにも料金が発生しているというケースがあります。1つの業務で効果を確認し、必要な範囲だけを有料化するという段階を踏むほうが、費用の見通しを保ちやすいところです。
補助金という選択肢も確認しておく
中小企業庁は「デジタル化・AI導入補助金2026」として、ITツールの導入費用を支援する制度を実施しています。制度を解説する民間の補助金情報サイトによると、補助額は5万円から最大450万円までで、補助率は枠や要件によって異なり、小規模事業者が賃上げなどの要件を満たす場合は4/5以内まで引き上げられるとされています。対象となる小規模事業者の基準は業種ごとに異なり、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)では従業員5人以下、宿泊業・娯楽業および製造業その他の業種では20人以下が目安とされています(出典:補助金ポータル「デジタル化・AI導入補助金とは?」)。補助額・補助率・要件は公募回や枠によって変わるため、申請を検討する際は中小企業庁が公開する最新の公募要領を直接確認してください。
社員10人以下の会社の多くは、この小規模事業者の枠に該当する可能性があります。ただし補助金は申請手続きに一定の時間がかかるため、「まず無料枠や低額プランで効果を確かめてから、本格導入の段階で補助金の活用を検討する」という順番のほうが、手戻りが少ないという考え方もあります。
では自社では何から始めるか
専任のIT担当者がいない会社では、いきなり全社的な導入計画を立てるより、担当者を1人決めて、1つの業務に絞り、無料枠で2〜4週間ほど試すところから始めるという選択肢が考えられます。効果が数字として見えてから月額プランに切り替え、必要であれば補助金の活用を検討するという順番であれば、大きな投資をする前に「自社の業務に合うかどうか」を確認できます。
まずは自社の業務の中で、毎週繰り返している作業を1つ書き出してみるところから始められるかもしれません。
出典: - デジタル化・AI導入補助金とは?【2026年・令和8年度】(補助金ポータル)
※補助金の要件は公募回ごとに変わります。申請前に中小企業庁および事務局が公開する公募要領の原本をご確認ください。