結論から:専任のIT担当者がいない会社では、全員で一斉に使い始めないのが要点です。担当者を1人決め、業務を1つに絞り、無料枠で2〜4週間試す。効果が数字で見えてから有料に切り替える、という順番になります。根拠もあります — 生成AIを「個人任せ」にしている企業が64.9%を占める一方、経営へのプラス効果を実感しているのは会社導入36.6%に対し個人任せ26.0%で、10.6ポイントの差がついています。

社員10人以下の会社には、たいてい専任のIT担当者がいません。経理も総務も営業も、社長や数名の社員が兼務しているというケースが多いところです。そういう会社が「AIを導入する」というとき、大企業向けの導入ガイドをそのまま当てはめても現実的ではありません。

この記事では、専任担当者がいない前提で、実際に手を付けられる順番を段階に分けて整理します。

4段階の進め方

段階 やること なぜその順番か
1 担当者を1人決める 全員一斉が最初のつまずき。「個人任せ」64.9%より「会社として導入」の方が効果を実感している
2 業務を1つに絞って試す 複数を同時に試すと、何が効いたか分からなくなる
3 無料枠でPoC(2〜4週間) 大きな投資の前に「自社の業務に合うか」を確かめる
4 効果を確認してから有料プラン 数字が見えてから払う。補助金の検討はその後

段階1:担当者を1人決める(全員で使おうとしない)

最初のつまずきは、「全社員で一斉にAIを使い始めよう」とすることです。人数が少ない会社ほど、1人ひとりの業務内容が違うため、全員が同じツールを同じように使えるとは限りません。

まずは1人、AIツールに触れる担当者を決めるところから始めるという進め方があります。経営者本人でも、事務作業を担当している社員でも構いません。ポイントは、その担当者が「自分の業務のどこかにAIを使ってみる」役割を担い、うまくいった使い方を後から他の社員に共有する流れを作ることです。

担当者を1人立てることには、根拠になる調査もあります。商工中金が中小企業3,892社から回答を得た2026年1月の調査では、生成AIを「個人任せ」にしている企業が64.9%を占めた一方、経営へのプラス効果を実感する割合は「会社として導入」した企業のほうが高く、会社導入36.6%に対して個人任せ26.0%と10.6ポイントの差がついていました(生成AIを「会社で導入」した企業と「個人任せ」の企業の差)。担当者を決めるという最初の一歩は、この「個人任せ」から抜け出し、会社として使い方を共有する体制の入り口にあたります。

あわせて、最低限のルールも早めに共有しておくと安心です。JILPTが2025年5月に公表した労働者Webアンケート(有効回答2.2万人、2024年5月27日〜6月27日)では、生成AIの適切な利用に関する社内規定を策定済みの職場は3.7%にとどまり、従業員99人以下では「会社の指示によらず自主的に使用」する人が4割を超えていました(社内ルールがあるのは3.7%)。入力してよい情報の範囲などを口頭でも決めておくと、後々の混乱を防げます。

段階2:1つの業務だけで試す

担当者が決まったら、いきなり複数の業務にAIを広げるのではなく、1つの業務に絞って試します。候補になりやすいのは、メールやチャットの文面作成、議事録の要約、見積書や請求書のたたき台作成など、毎週繰り返し発生していて、かつ多少の間違いがあっても後で人が確認できる業務です。逆に、法的な判断や金額の最終確認が必要な業務は、最初の対象から外したほうが無難です。

1つの業務に絞る理由は、効果を測りやすくするためです。「AIを入れて何となく楽になった」ではなく、「見積書のたたき台にかかっていた時間が30分から10分に減った」というように、作業時間の変化を具体的に把握できると、次の判断がしやすくなります。

効果を数字で測ることをおすすめするのには理由があります。パーソル総合研究所が正規雇用者3,000人に聞いた調査では、生成AIによって個々のタスクの所要時間は平均16.7%(週あたり約26.4分)短縮する一方、業務時間そのものが実際に減ったと答えた人は約25.4%にとどまりました(タスクは16.7%短縮でも業務時間が減った人は25.4%)。作業単位で速くなっても、それが会社全体の時間削減に直結するとは限らないということです。だからこそ、段階2では「どの作業が、どれだけ短くなったか」を具体的に記録しておくことが、次の投資判断の土台になります。

業務を選ぶときは、担当者の負担感だけでなく、間違いが起きたときの影響範囲も考えておく必要があります。たとえば取引先への送付前に人が目を通す工程が残っている文面作成であれば、多少の誤りがあってもその場で修正できます。一方、在庫数や金額をそのまま自動反映するような業務は、確認の工程を挟まないままAIに任せると、間違いに気づきにくくなるところです。最初の対象業務は、後工程に人の確認が残っているものを選ぶという考え方が安全です。

段階3:無料枠でPoCする

多くのAIツールには無料プランがあります。ChatGPTやGemini、Claudeはいずれも無料で使える範囲があり、まずはこの無料枠で試す(PoC=Proof of Concept、実際に効果があるかを小さく検証すること)というのが現実的な始め方です。

無料枠で試す期間は、2〜4週間程度を目安にするという考え方があります。この間に、段階2で決めた1つの業務について、実際の業務データに近い内容を入力し、出力をそのまま使えるか、手直しが必要かを記録しておきます。無料枠には利用回数やファイルサイズの制限があることが多いため、業務量によっては早い段階で上限に達することもあります。その場合は、そこで初めて有料プランへの切り替えを検討する材料になります。

段階4:効果を確認してから有料プランに切り替える

PoCで効果が確認できたら、有料プランへの切り替えを検討します。主要なAIチャットツールの有料プランは、1人あたりの月額課金が中心で、使う人数分の費用がかかる形が一般的です。だからこそ、まず無料枠で効果を確認してから、実際に効果があった人数だけを有料に切り替えるという順番が、費用の見通しを保ちやすくなります。

このタイミングで、使う人数を段階2・3で効果があった担当者に絞るか、他の社員にも広げるかを決めます。人数を広げる場合は、1人あたりの月額料金×人数で年間コストを見積もり、削減できる作業時間の見込みと照らし合わせて判断するという進め方が考えられます。契約前に、各ツールの公式サイトで現時点の料金プランと無料枠の範囲を確認しておくと、想定と実際の費用のずれを防げます。

社員10人以下の会社では、情報システム部門が個々のツールの契約状況を一元管理していないことも多いところです。担当者が個人のクレジットカードでツールを契約し、退職時に契約情報が引き継がれないまま止まってしまうという事態も起こり得ます。会社名義の請求先を用意し、契約しているツールと担当者を1枚のメモにまとめておくと、後々の管理が楽になります。

導入担当者からよく聞かれるつまずきの1つは、無料枠で良い手応えを得たあと、効果を数字で確認しないまま複数の業務・複数のツールに一気に広げてしまうことです。ツールごとに料金体系や無料枠の条件が異なるため、気づかないうちに複数の有料プランが並行して動いていて、使われていないものにも料金が発生しているというケースがあります。1つの業務で効果を確認し、必要な範囲だけを有料化するという段階を踏むほうが、費用の見通しを保ちやすいところです。

補助金という選択肢も確認しておく

国は中小企業・小規模事業者向けに、ITツールの導入費用を支援する制度を設けています。補助額・補助率・対象となる事業者の要件は公募回や枠ごとに変わり、その時々で条件が異なります。そのため、この記事で具体的な金額や要件の数値を挙げることはしません。申請を検討する際は、中小企業庁および各制度の事務局が公開している最新の公募要領を直接確認してください。相談先としては、こうした制度に詳しいITベンダーや、顧問の税理士があります。実際に、中小企業がAI導入で相談する相手はITベンダーが50.5%、税理士が32.8%と多いという調査もあります(中小企業のAI導入予定は17.8%、相談先はITベンダーが最多)。

社員10人以下の会社の多くは、この小規模事業者の枠に該当する可能性があります。ただし補助金は申請手続きに一定の時間がかかるため、「まず無料枠や低額プランで効果を確かめてから、本格導入の段階で補助金の活用を検討する」という順番のほうが、手戻りが少ないという考え方もあります。

では自社では何から始めるか

専任のIT担当者がいない会社では、いきなり全社的な導入計画を立てるより、担当者を1人決めて、1つの業務に絞り、無料枠で2〜4週間ほど試すところから始めるという選択肢が考えられます。効果が数字として見えてから月額プランに切り替え、必要であれば補助金の活用を検討するという順番であれば、大きな投資をする前に「自社の業務に合うかどうか」を確認できます。

まずは自社の業務の中で、毎週繰り返している作業を1つ書き出してみるところから始められるかもしれません。

まとめ

  • 専任のIT担当者がいない会社では、全員で一斉に使い始めない。担当者を1人決めるところから
  • 生成AIを「個人任せ」にしている企業が64.9%。一方、経営へのプラス効果を実感しているのは会社導入36.6%・個人任せ26.0%で10.6ポイントの差
  • AIの利用に関する社内規定を策定済みの職場は3.7%。従業員99人以下では利用者の多くが会社の指示によらず自主的に使っている
  • 順番は1人 → 1業務 → 無料枠で2〜4週間 → 効果を見てから有料
  • 補助金は申請に時間がかかる。まず無料枠や低額プランで試す方が先
  • 補助額・補助率・対象要件は公募回ごとに変わるので、申請前に公募要領の原本を確認する
  • 相談先はITベンダー50.5%・税理士32.8%が多い

ツールの選び方はAIツールの選び方に、どの業務から始めるかは中小企業が最初にAI化すべき業務の見つけ方に整理しています。


※補助金・IT導入支援制度の補助額・補助率・対象要件は公募回ごとに変わります。申請前に中小企業庁および各制度の事務局が公開する公募要領の原本を直接ご確認ください。