結論から書きます。AIの導入予定率17.8%は、調査対象16のデジタルツール中で最も高い数字でした。一方で導入済みは14.6%にとどまります。デジタル化投資額は中央値130万円(n=2,618社、2025年3月調査)。相談相手はITベンダー50.5%が中心で、公的機関はほぼ使われていません。
一次資料の実測:誰に、いつ、何を聞いた調査なのか
株式会社日本政策金融公庫 総合研究所(中小企業研究第一グループ)が公表した調査の数字を確認します(出典:株式会社日本政策金融公庫 総合研究所(中小企業研究第一グループ)。2025年5月21日ニュースリリース「デジタル化に取り組む中小企業の実態に関する調査」/「全国中小企業動向調査・中小企業編」2025年1-3月期特別調査、2025-05-21、https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/tokubetu_250521.pdf)。
数字を読む前に、対象範囲を押さえます。ここを飛ばすと解釈を大きく誤ります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査対象 | 13,479社(日本政策金融公庫〈中小企業事業〉の取引先) |
| 有効回答 | 4,328社(回答率32.1%) |
| 調査時点 | 2025年3月中旬 |
| 実施主体 | 株式会社日本政策金融公庫 総合研究所 |
| 公表日 | 2025年5月21日 |
| 業種構成 | 製造業1,620社(37.4%)、卸売業589社(13.6%)、サービス業516社(11.9%)、建設業466社(10.8%)、小売業269社(6.2%)ほか |
まず、デジタル化への取り組み方針です。現在「かなり積極的に取り組んでいる」4.0%と「積極的に取り組んでいる」39.6%を合わせて43.6%(n=4,079、全業種計)。今後5年間については「かなり積極的」6.2%と「積極的」48.3%を合わせて54.5%(n=3,886)でした。現在の方針は規模が大きいほど積極的で、49人以下37.1%、50〜99人52.7%、100人以上57.5%と差がついています。
デジタルツール導入による業績全体へのプラスの影響は、「期待以上の成果があがっている」2.0%と「期待どおりの成果があがっている」43.7%を合わせて45.7%。「期待したほどの成果はあがっていない」23.8%、「わからない」30.6%でした(n=3,446。取り組み方針を尋ねた図-1で「まったく取り組んでいない」以外を回答した企業が対象)。
「わからない」が30.6%を占めている点は見落とせません。成果が出たか出ていないかを判断できていない企業が、成果を実感した企業の3分の2に相当する規模で存在しています。
AIは「導入予定17.8%」でツール中トップ、ただし導入済みは14.6%
AI(人工知能)の導入状況は次の通りです。
| 区分 | 割合 |
|---|---|
| 2023年度以前に導入 | 5.4% |
| 2024年度に新規導入(大幅改修を含む) | 9.2% |
| 導入していないが導入予定はある | 17.8% |
導入済みは5.4%と9.2%を合わせて14.6%です(この合算は当編集部による計算値です)。注目すべきは導入予定17.8%が、調査対象となった16のデジタルツールの中で最も高いことです。つまりAIは、導入実績ではなく導入意向において他のどのツールよりも先行しています。普及の入口にある局面だと読めます。
この設問の分母は、図-1で「まったく取り組んでいない」以外を回答したデジタル化取組企業です。有効回答4,328社全体ではありません。なお該当箇所のn数は本文に明示されておらず、参考として図-1の全業種計はn=4,079です。
成果は「業務の効率化」に81.9%が集中している
AI導入による具体的な成果(複数回答)は次の通りでした。
| 成果 | 割合 |
|---|---|
| 業務の効率化 | 81.9% |
| 人手不足の解消 | 21.1% |
| 既存事業・サービスの品質向上 | 18.4% |
| 新事業・サービスの創出 | 17.7% |
| 業務の標準化 | 16.4% |
| 意思決定の迅速化 | 13.7% |
| ビジネスモデルの変革 | 13.7% |
| 従業員の意識の変革 | 13.0% |
| 販路の拡大 | 9.7% |
| 多様な働き方の実現 | 6.0% |
| 顧客との関係強化 | 5.0% |
| 社内コミュニケーションの促進 | 4.7% |
ここは分母の扱いが最も危険な箇所です。この81.9%の分母は、AIを「2023年度以前に導入」または「2024年度に新規導入(大幅改修を含む)」と回答した企業のみです。導入済みが14.6%であることを踏まえると、実数は回答企業全体のごく一部にとどまります。しかも該当箇所にAIの回答企業数(n)が本文に記載されておらず、少数サンプルである可能性を排除できません。「中小企業の8割がAIで効率化した」という書き方は、明確な事実誤認になります。
そのうえで、分布の形には意味があります。効率化81.9%に対し、人手不足の解消21.1%、新事業・サービスの創出17.7%。1位と2位の間に60ポイント以上の開きがあります。AI導入企業が実際に手にしているのは、事業構造の変革ではなく既存業務の省力化です。値踏みするなら「省力化ツール」として見るのが、この数字に沿った読み方です。
投資額の中央値は130万円、規模より姿勢が金額を決めている
2024年度にデジタル化を推進するために投じた金額(ツール導入費・保守運用費・専門人材獲得費・従業員教育費などを含む)の分布は次の通りです(n=2,618、全業種計。デジタル化に取り組んでいる企業が対象)。
| 投資額 | 割合 |
|---|---|
| 100万円未満 | 36.6% |
| 100万円以上1,000万円未満 | 48.7% |
| 1,000万円以上1億円未満 | 13.9% |
| 1億円以上 | 0.7% |
平均値586.5万円、中央値130万円。平均が中央値の4.5倍に開いているのは、一部の高額投資企業が平均を押し上げているためです。実態を表すのは中央値130万円のほうです。
従業員規模別では、49人以下(n=1,548)が平均348.2万円・中央値100万円、50〜99人(n=588)が平均625.4万円・中央値200万円、100人以上(n=482)が平均1,304.3万円・中央値500万円でした。
そして、規模と取り組み方針を掛け合わせると別の像が出ます。
- 49人以下で「かなり積極的に取り組んでいる」企業:平均745.3万円・中央値300万円
- 100人以上で「あまり取り組んでいない」企業:平均269.8万円・中央値100万円
49人以下の積極層が、100人以上の消極層を平均でも中央値でも上回っています(「かなり積極的に取り組んでいる」全体n=128、「あまり取り組んでいない」全体n=381)。投資額を決めているのは規模ではなく経営姿勢だ、という読み方ができます。ただし「かなり積極的」のn=128は全体から見て小さく、規模別に分解した先の数値はさらに少数になるため、幅を持って受け取る必要があります。
相談相手はITベンダー50.5%、公的機関はほぼ使われていない
デジタル化について「相談した先がある」と回答したのは55.9%、「どこにも相談していない」が44.1%でした(n=3,306、全業種計)。規模別では49人以下51.8%(n=1,981)、50〜99人61.8%(n=738)、100人以上62.2%(n=587)。小規模なほど相談していません。
具体的な相談相手は次の通りです(「相談した先がある」と回答した企業のみが分母、n=1,836)。
| 相談相手 | 割合 |
|---|---|
| ITベンダー | 50.5% |
| 税理士・公認会計士 | 32.8% |
| 自社の役員・従業員 | 27.7% |
| 取引先 | 21.0% |
| 金融機関(日本公庫を除く) | 20.5% |
| コンサルタント | 19.7% |
| 経営者仲間 | 16.1% |
| 親会社・グループ会社 | 8.4% |
| 商工会議所・商工会 | 5.3% |
| 日本政策金融公庫 | 4.4% |
| 中小企業基盤整備機構 | 3.3% |
| 地方自治体 | 2.7% |
| 情報処理推進機構 | 0.9% |
上位は民間の事業者です。公的機関は商工会議所・商工会5.3%、日本政策金融公庫4.4%、中小企業基盤整備機構3.3%、情報処理推進機構0.9%と、いずれも一桁にとどまります。支援リソースが用意されているのに使われていない、という構図が見えます。
ITベンダー50.5%が最多であること自体は自然ですが、相談先が製品を売る側に偏る構造には注意が必要です。ツール選定を提案者だけに委ねた場合に何が起きるかは特定ベンダーへの依存で身動きが取れなくなった話で扱っています。
利害関係の明示と、この調査の限界
数字を使う側として、割り引いて読むべき点を先に出します。
まず利害関係です。この記事が扱う調査は株式会社日本政策金融公庫 総合研究所自身による発表であり、同公庫は中小企業向け融資および経営相談という支援機能の提供者です。上に挙げた相談相手の選択肢には「日本政策金融公庫」が項目として含まれ、4.4%という結果が出ています(その相談内容の66.2%は資金調達)。自社の支援機能に関する項目を自社の調査で扱っている構造は、読者が数字の出どころを判断するうえで押さえておく必要があります。
加えて、この記事を掲載している「AIの鬼」は、企業のAI導入支援を事業とする株式会社TOEが運営しています。当社はAI活用が広がることで利益を得る立場にあります。限界を先に並べるのはそのためです。
- 対象は日本政策金融公庫(中小企業事業)の取引先13,479社であり、中小企業一般の無作為抽出ではありません。同公庫と融資取引のある企業=一定規模・設備投資意欲のある層に偏っており、無借金企業や公庫と取引のない零細企業は含まれません。「中小企業全体の実態」として一般化してはなりません。
- 回答率は32.1%(4,328社/13,479社)。デジタル化に関心のある企業ほど回答しやすい無回答バイアスの可能性があり、積極層の割合が実態より高く出ている恐れがあります。
- 導入状況・成果・投資額・相談相手の各集計は、すべて「まったく取り組んでいない」以外を回答した企業に尋ねたもので、有効回答4,328社全体ではありません。当編集部の事前整理では一部を「分母は全回答4,328社」と記していましたが、これは誤りでした。本文注記を正とします。
- AI成果の「業務の効率化81.9%」等の分母は、AIを導入済みと回答した企業のみです。該当のn数が本文に記載されておらず、少数サンプルの可能性を排除できません。
- 「導入予定がある17.8%」はあくまで意向であり、実際の導入を意味しません。現在まったく取り組んでいない企業でも今後5年間は45.1%が積極的と回答しており、意向と実行には乖離があります。
- 従業員規模の集計区分は「49人以下」「50〜99人」「100人以上」の3区分のみで、最小区分が49人以下と広く設定されています。従業員数人規模の小規模事業者の実態は、この調査から切り出せません。
- AIの定義(生成AIか、従来型の機械学習・画像認識か)が本文で示されておらず、「AI導入」が何を指すかは回答企業の解釈に委ねられています。導入率14.6%が何の導入率なのかは確定できません。
読者への意味:中小企業は何を決める段階にあるのか
この調査から中小企業の経営者・情報システム担当が受け取るべき点は3つです。
第一に、AIは「まだ早い」でも「もう遅い」でもありません。導入済み14.6%に対して導入予定17.8%。予定が実績を上回り、かつ全ツール中で予定率が最も高い。周囲が動き出す直前の局面にいると読めます。ただし前述の通り、AIの定義が調査本文で示されていないため、この14.6%が生成AIを指すかは確定できません。
第二に、期待する成果は絞ったほうが現実に合います。導入企業の成果は業務の効率化81.9%に集中し、人手不足の解消は21.1%、新事業・サービスの創出は17.7%です。「AIで新規事業を」から入るより、既存業務のどこを省力化するかから入るほうが、実際に出ている成果の分布に沿っています。着手業務の見つけ方は中小企業が最初にAI化すべき業務の見つけ方にまとめています。
第三に、予算の目安が立ちます。デジタル化投資額の中央値は130万円、100万円未満が36.6%、100万円以上1,000万円未満が48.7%。8割超が1,000万円未満です。これはAI単体ではなくデジタル化全体への投資額ですが、数百万円規模の身の丈投資が主流だという相場観は得られます。何にいくらかかるのかの内訳はAI導入のコスト構造を分解するで扱っています。
TOEの読み筋:規模ではなく姿勢が金額を決めているという数字をどう見るか
ここから先は当編集部の解釈です。TOEでは未実施の観点を含みます。
最も示唆的だと考えているのは、49人以下の積極層(中央値300万円)が100人以上の消極層(中央値100万円)を上回っていた点です。これは「規模が小さいから予算が出せない」という説明が、少なくともこの調査の範囲では成り立たないことを示しています。金額を決めているのは体力ではなく、経営者が優先順位のどこに置いたかだと見ています。
もう一点、相談相手の分布を重く見ています。ITベンダー50.5%に対し、公的機関は最大でも商工会議所・商工会の5.3%。そして「どこにも相談していない」が44.1%、49人以下では相談経験のある企業が51.8%と最も低い。相談していない企業ほど小規模で、相談している企業ほど選択肢を持っている構造です。導入の巧拙より前に、比較検討の材料をどこから手に入れるかで差がついている可能性があります。ツールを比べる前に自社の判断軸を持つ考え方はAIツールの選び方で整理しています。
ただし、これらはいずれも調査本文が因果関係として示したものではなく、当編集部が数字の並びから立てた仮説です。TOEでは、支援先を対象にした投資額と経営姿勢の関係を測る定量調査は実施していません。また、公的支援機関の利用が実際に成果を高めるかどうかも検証していません。実測値が取れた時点で、この読み筋が正しかったかを本メディアで報告します。
まとめ
- AIの導入予定17.8%は調査対象16デジタルツール中で最も高い一方、導入済みは5.4%+9.2%=14.6%(分母はデジタル化に取り組む企業、2025年3月中旬調査)。
- AI導入の成果は業務の効率化81.9%に集中し、人手不足の解消21.1%、新事業・サービスの創出17.7%。当面は省力化ツールとして値踏みするのが数字に沿った読み方。
- この81.9%の分母はAI導入済み企業のみで、該当n数は本文に記載がない。「中小企業の8割がAIで効率化した」は事実誤認になる。
- デジタル化投資額は中央値130万円・平均586.5万円(n=2,618)。49人以下の積極層は中央値300万円で、100人以上の消極層の100万円を上回る。
- 相談相手はITベンダー50.5%・税理士32.8%が中心で、公的機関は商工会議所5.3%、日本政策金融公庫4.4%、情報処理推進機構0.9%。調査主体である同公庫自身が選択肢に含まれる点は割り引いて読む必要がある。
- 対象は同公庫の取引先13,479社、回答率32.1%。中小企業一般の無作為抽出ではなく、一般化はできない。