結論から書きます。中小企業の生成AI「組織的活用」は32.3%で、まだ3社に1社です。大企業の59.1%とは26.8ポイントの差があります。一方で中小企業の「個人で活用」は27.7%、「方針は決めていない」は38.7%。会社が決める前に現場が使い始めている、というのがこの調査の一番の読みどころです。
一次資料の実測 — 6,327社が答えた数字
東京商工リサーチ(TSR)が2026年4月27日に公表した「生成AI」に関するアンケート調査の結果です(出典:東京商工リサーチ(TSR)、2026-04-27、https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202766_1527.html)。
まず調査の対象範囲を押さえます。ここを飛ばして数字だけ引用すると、後で社内説明が崩れます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査主体 | 東京商工リサーチ(TSR) |
| 調査方法 | インターネットによるアンケート(任意回答) |
| 調査期間 | 2026年3月31日〜4月7日 |
| 有効回答 | 6,327社 |
| 内訳 | 大企業455社(資本金1億円以上)/中小企業5,872社(資本金1億円未満、個人企業等を含む) |
| 比較対象 | 前回2025年8月調査 |
| 公表日 | 2026年4月27日 |
全体(6,327社が分母)の回答は次の通りです。
- 生成AIツールを「会社として活用を推進」している企業は20.3%(1,289社)。前回2025年8月調査の13.8%(919社)から6.5ポイントの増加
- 「方針は決めていない」企業は37.5%(2,374社)。前回の50.9%(3,388社)から13.4ポイントの減少
- 「個人で活用」している企業は27.1%(1,718社)。前回の22.3%(1,482社)から4.8ポイントの増加
規模別に分けると差がはっきりします。組織的な活用(「会社として活用を推進」+「部門単位で活用を推進」)は、大企業455社を分母として59.1%(会社として36.4%/166社、部門単位22.6%/103社)で、前回2025年8月の43.3%から15.8ポイント増えました。中小企業5,872社を分母とすると32.3%(会社として19.1%/1,123社、部門単位13.2%/776社)で、前回23.4%から8.9ポイント増です。差は26.8ポイント。伸び幅そのものも大企業のほうが大きく、差は縮まるどころか広がっています。
中小企業側の内訳をもう少し細かく見ると、「方針は決めていない」が38.7%(2,276社)で最大勢力です。「個人で活用」は27.7%(1,632社)。大企業の「個人で活用」は18.9%で、前回19.4%から0.5ポイント減っています。大企業では個人利用が会社の方針に吸収されつつあるのに対し、中小企業では個人利用がそのまま残っている、という対照が読み取れます。
人員への影響については、分母が変わる点に注意が必要です。この設問は全回答6,327社ではなく、組織的に活用を推進している2,088社に対するものです。
- 「人員構成への影響はない」が46.5%(971社)で最多
- 「配置転換の可能性がある」が28.9%(605社)。内訳は大企業46.7%(115社)、中小企業26.6%(490社)
- 「総従業員数抑制の可能性がある」が16.1%(337社)
なお、生成AI活用に関連して早期退職募集の可能性が「ある」とした企業は、全体ベースで3.6%(211社)でした。
この調査の限界 — 数字を使う前に知っておくこと
引用する側として、都合の悪い点も先に書きます。
- インターネットによる任意回答であり、無作為抽出ではありません。生成AIに関心のある企業ほど回答しやすい自己選択バイアスは避けられず、実態より活用側に振れている可能性があります
- 有効回答6,327社のうち中小企業が5,872社(約93%)と大きく偏っており、大企業は455社にとどまります。大企業側の数値は相対的にサンプルが薄く、36.4%=166社、22.6%=103社といった実数で見ると、数十社の増減で比率が動く規模です
- 企業規模の区分は資本金のみ(1億円以上/未満)で、従業員規模の下限がありません。資本金1億円未満には個人企業等も含まれるため、いわゆる中堅企業と零細企業が同じ「中小企業」として合算されています
- 人員構成への影響(影響なし46.5%/配置転換28.9%/総従業員数抑制16.1%)の分母は組織的活用を推進している2,088社だけです。全企業の実態として一般化はできません
- 「会社として活用を推進」「部門単位で活用を推進」はいずれも自己申告で、実際の利用度合いや成果は検証されていません。全社導入を宣言しただけの企業と、日常業務に入り込んでいる企業が同じ枠に入ります
- 前回2025年8月調査との比較は、同一企業を追跡したパネル調査ではありません。各回の回答企業構成が異なる可能性があります
- 大企業の「会社として推進」36.4%と「部門単位」22.6%の単純合計は59.0%で、公表されている組織的活用59.1%とは端数処理の差があります
利害関係についても明示します。この調査は東京商工リサーチ自身による発表であり、同社は企業信用調査・企業データベースを事業とする調査会社です。調査の設計・集計・公表がすべて同社の内部で完結しており、第三者による検証は行われていません。加えて、この記事を書いている「AIの鬼」は株式会社TOEが運営するメディアで、TOEはAI導入支援を事業としています。つまり「中小企業のAI活用はまだ3割」という結論は、書き手にとって都合のよい話です。だからこそ、上の限界を先に並べました。数字の出どころと書き手の立場を見たうえで判断してください。
読者への意味 — 経営者・情シスが今週決められること
この調査の中小企業サンプルは5,872社で、資本金1億円未満・従業員規模の下限なしという構成です。中小企業の実態としてそのまま読める、数の揃った調査は多くありません。そのうえで、実務判断に接続できる論点は3つです。
1つ目は、個人利用の把握が先だということです。中小企業の「方針は決めていない」38.7%に対し、「個人で活用」は27.7%。方針が空白のまま、現場が自分のアカウントで使っている状態です。ここで取るべき順序は、禁止でも放置でもなく「実態把握 → ルール化」です。誰が何のツールを何の業務に使っているかを、まず1〜2週間かけて棚卸しする。禁止から入ると利用が地下に潜り、機密情報の流出リスクをかえって見えなくします。どこから手を付けるかの整理は中小企業が最初にAI化すべき業務の見つけ方も参考になります。
2つ目は、取引先の要求水準が先に動くということです。大企業の組織的活用59.1%と中小企業の32.3%の26.8ポイント差は、単なる進度の差ではありません。発注側である大企業が社内で生成AIを標準化すれば、資料フォーマット、納品物の作り方、情報の取り扱い規程といった形で、要求は取引先に降りてきます。「AI利用の有無と管理体制を取引先に確認する」といった項目が調達要件に入ってくる可能性は、この差が広がっているうちは高まる一方です。自社が対応するのかしないのかを、要求が来てから考えるのでは遅い。判断材料としてはAIツールの選び方のような選定軸を先に持っておくほうが早く動けます。
3つ目は、社内説明の前提を間違えないことです。「AI導入=人員削減」という説明で社内に入ると、現場の抵抗を自分で作ることになります。この調査では、組織的活用を推進している2,088社のうち「人員構成への影響はない」が46.5%(971社)で最多でした。中小企業の「配置転換の可能性がある」は26.6%(490社)で、大企業の46.7%(115社)より20ポイント低い。全体ベースでの早期退職募集の可能性「ある」は3.6%(211社)です。もちろんこれは自己申告かつ導入初期の回答であり、数年後の実態を保証しません。ただ少なくとも現時点で、削減を前提に説明しなければならない根拠はこの調査からは出てきません。小さいチームでの進め方は小さな組織でAIを定着させる進め方にまとめています。
TOEの読み筋 — 32.3%の中身はもっと薄いと見ている
ここからは編集部の見立てです。TOEでは同種の調査を実施しておらず、以下は検証済みの結論ではありません。
「会社として活用を推進」19.1%(中小企業1,123社)という数字は、自己申告である以上、実態としては幅が大きいはずだと考えています。全社アカウントを契約した時点で「推進している」と答える企業と、業務手順に組み込んで毎日使われている企業が、同じ枠に入ります。前者は契約したまま使われていない状態でも数字上は「推進」です。したがって、日常業務に定着している企業の割合は32.3%よりかなり低い可能性がある、というのが編集部の読みです。これは調査の限界であって、TSRの集計の誤りではありません。
一方で、「方針は決めていない」が50.9%から37.5%へ13.4ポイント下がった動きは、この調査の中で最も大きな変化です。半年強で回答企業の1割強が「決めていない」から抜けた。抜けた先が推進なのか、明確な不使用方針なのかは公表数値からは分けられませんが、少なくとも「まだ様子を見る」という姿勢が数として減っていることは確かです。
実務に落とすなら、次の順序が現実的だと考えています。第一に、現場の個人利用を1〜2週間で棚卸しする。第二に、入力してよい情報・いけない情報を1ページの社内ルールにする。ツール選定より先にこれをやる。第三に、業務を1つだけ決めて効果を測る。3つ同時に始めると、どれが効いたか分からないまま予算だけ消えます。測り方についてはAI導入の効果をどう測るかの考え方が使えます。
まとめ
- 東京商工リサーチの2026年4月調査(有効回答6,327社、調査期間2026年3月31日〜4月7日、インターネットアンケート)で、中小企業5,872社の組織的な生成AI活用は32.3%、大企業455社は59.1%。差は26.8ポイントで、前回2025年8月からの伸びも大企業のほうが大きい
- 中小企業では「方針は決めていない」38.7%(2,276社)が最大勢力で、「個人で活用」27.7%(1,632社)。会社の方針が現場の利用に追いついていない
- 人員への影響は、組織的活用を推進する2,088社が分母で「影響はない」46.5%(971社)が最多。中小企業の配置転換の可能性は26.6%(490社)にとどまり、削減前提の社内説明は現時点の数字からは裏付けられない
- この調査はインターネットによる任意回答で無作為抽出ではなく、活用側に振れる自己選択バイアスがある。「推進」はすべて自己申告で、実際の利用度合いは検証されていない
- 記事内で示した通り、調査はTSR自身による発表であり、この記事を書くTOEはAI導入支援を事業とする当事者。TOEでは同種の調査を実施していない。まず取るべき行動は個人利用の棚卸しと1ページの社内ルール化で、ツール選定はその後