結論から書きます。全国2.2万人の労働者調査(2024年5月27日〜6月27日実施)で、仕事に生成AIを使っている人は6.4%(1,401人)。一方で適切利用の社内規定・ガイドラインが「策定されている」と答えた人は3.7%にとどまり、従業員99人以下では生成AI利用者の4割超が「会社の指示によらず自主的に使用」していました。中小企業では、会社が把握しないまま使われている状態が構造的に起きています。
この調査は誰が何を測ったのか
出典は、独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査シリーズNo.256「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査(労働者Webアンケート)」です(出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)/調査シリーズNo.256「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査(労働者Webアンケート)」2025年5月23日公表、2025-05-23、https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/256.html)。
利害関係を先に書いておきます。この調査の発信元であるJILPTは厚生労働省所管の独立行政法人であり、生成AI製品やAI導入支援サービスの提供者ではありません。つまり本調査は「製品を売る側が自社製品の効果を発表した数字」ではなく、公的研究機関が労働者側に聞いた自己申告データです。ベンダー発表の導入率と性質が違うので、読むときの前提を分けてください。逆に言えば、企業側の実態(実際に何が導入されているか)を測ったものでもありません。
対象範囲を表にします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査主体 | JILPT(独立行政法人 労働政策研究・研修機構) |
| 調査方法 | Webアンケート(調査会社の登録モニター) |
| 実施期間 | 2024年5月27日〜6月27日 |
| 対象 | 全国の雇用者(公務員を含む) |
| 有効回答 | 2.2万人(22,000人) |
| 抽出 | スクリーニング回答者17万1,529人から層化割付で確定 |
| 公表日 | 2025年5月23日 |
数字はどうなっていたのか
まず利用率です。分母はすべて全有効回答労働者 n=2.2万人。
- 勤め先企業全体でAIが「使用されている」と回答した雇用者:2,833人(12.9%)
- 自身がAIを利用している雇用者(AI利用者):1,854人(8.4%)
- 自身が生成AIを利用している雇用者(生成AI利用者):1,401人(6.4%)
会社にAIがあると認識している人が12.9%いても、自分で触っている人は8.4%、生成AIに限れば6.4%まで落ちます。2024年半ばの時点では、生成AIは「職場にあるが自分は使っていない」層のほうが厚かったということです。
用途は、生成AI利用者 n=1,401人の複数回答で以下の通りでした。
| 生成AIの活用方法(複数回答、n=1,401) | 割合 |
|---|---|
| 資料や文章の原案作成 | 46.5% |
| 文章等の修正・編集・校正・要約 | 40.4% |
| データの整理・分析 | 40.3% |
| 他言語への翻訳 | 33.8% |
| プログラムのコード作成・デバック | 29.4% |
| アイデアの検討・改良 | 28.7% |
| 情報収集のためのオンライン・リサーチ | 28.6% |
| 斬新なアイデアの模索 | 21.1% |
| 仕事のための自己学習 | 20.1% |
上位3つが文章の原案・編集・データ整理で、いずれも4割台から4割ちょうど。特殊な使い方ではなく、事務作業の下ごしらえに集中しています。中小企業でよく聞く「議事録と文章の下書きに使っている」という声と方向が一致します。文章まわりの実務は議事録をAIで作る手順でも扱っています。
中小企業で何が起きているのか
ここがこの調査の核心です。生成AI利用者 n=1,401人に対して、使用のきっかけを聞いた結果はこうでした。
- 企業指示で、生成AIを使用している:67.5%
- 企業指示によらず自主的に、生成AIを使用している:32.5%
全体では会社の指示のほうが多数派です。ところがこれを従業員規模別に見ると絵が変わります。JILPT本文は、従業員99人以下では「企業指示によらず自主的に使用している」割合が4割を超えていると記述しています(分母=生成AI利用者 n=1,401人の規模別内訳)。「企業指示で使用」の割合が高いのは100人以上でした。なお本文中に規模別の具体的な%数値は明示されていないため、ここでは「4割超」という記述以上には踏み込みません。
そしてルールの整備状況です。全有効回答労働者 n=2.2万人ベースで、従業員が生成AIを仕事で適切に利用することに関する社内規定・ガイドラインは、
- 「策定されている」:3.7%
- 「策定の準備をしている」:4.0%(合わせても1割未満)
- 「策定されていないし準備も進めていない」:45.1%
- 「わからない」:47.2%
利用を「禁止する」側の規定も似た構図で、「策定されている」1.9%、「準備をしている」5.1%、「策定されていないし準備もない」45.9%、「わからない」47.1%でした。
分母を生成AI利用者 n=1,401人に絞ると、適切利用の規定が「策定されている」+「策定の準備を進めている」は47.2%まで上がります。使っている人の職場ほどルールがある、という関係です。ただし裏を返せば、実際に使っている人の約半数は、未策定または「わからない」職場で使っていることになります。さらに、生成AIの利用が禁止されているにもかかわらず利用している人が4.1%(分母=生成AI利用者 n=1,401人)、企業が禁止規定の「策定の準備を進めている」段階で利用している人が32.8%いました。
ルールを作ると使わなくなるのか
経営者側でいちばん多い懸念がこれです。この調査には、それに対する示唆があります。
生成AIの用途の平均選択数を、適切利用ガイドラインの有無で比べると、「策定されている」職場が3.6(n=487人)、「策定されていないし準備もない」職場が3.2(n=403人)でした(いずれも生成AI利用者の内数)。ルールがある職場のほうが、使い道が広い。差は0.4であって劇的ではありませんが、少なくとも「ルールを作ると使われなくなる」方向のデータは出ていません。
ただし不都合な数字も同じ調査に載っています。ガイドラインが「策定されている」と答えた人のうち、52.1%が「内容の一部は理解できていない」、15.1%が「ほとんど理解できていない」、10.5%が「まだ読んだことがない」と回答しました。作れば終わり、にはならないということです。
現場の受け止め方は、AI利用者 n=1,854人ベースで次の通りでした。
| AI利用者の認識(n=1,854) | 同意 | 不同意 |
|---|---|---|
| AIが自身のスキルを補完している | 60.4%(強く13.9%+やや46.5%) | 9.0% |
| AIが自身のスキルの一部の価値を下げている | 34.5% | 29.9% |
| どちらでもない(補完について) | 27.3% | — |
補完への同意は不同意の6倍以上です。一方で「価値を下げている」にも34.5%が同意しており、両方(価値を下げている、かつ補完している)と答えた人が約1/4(26.4%)いました。歓迎と警戒が同じ人の中に同居している、と読むのが正確です。
変化の方向も出ています。勤め先でAIが使用されている労働者を分母に、2年前(2022年5月)と比べてAIの使用状況が「大幅に/やや拡大している」と答えたのは57.9%。今後10年以内の進展を見込む割合は、労働者計55.6%、AI利用者92.5%、AI非利用者52.2%でした。使っている人ほど進展を見込む、という差がはっきり出ています。
この調査の限界
数字を使う前に、必ず押さえるべき点があります。JILPT自身が本文冒頭で「労働者が企業におけるAIの使用状況を全て正確に認識できていない可能性があることに留意が必要」と明記しています。
- これは企業側への調査ではなく、労働者の自己認識ベースです。ガイドラインについて「わからない」が47.2%(適切利用)・47.1%(禁止)と極めて高く、「策定されていない率」そのものではありません
- Web調査会社の登録モニターが対象で、無作為抽出の国民代表標本ではありません。スクリーニング回答者17万1,529人から層化割付で2.2万人を確定しています
- 登録モニターの性質上、15〜24歳・65歳以上を中心に全体の3.0%程度が割付通りに回収できず、隣接年齢階級や地域ブロックを横断した代替回収を許容しています。男性正社員の生産工程従事者、農林漁業作業者などの職種でも代替回収が発生しました
- 回答時間は中央値8分・最頻値5分と短く、詳細設問の回答精度には幅がある可能性があります
- 「99人以下」は単一の括りで、10人未満・30人未満といった小規模帯の細分はありません。中小企業一般に敷衍する際は、最小区分が99人以下である点に注意が必要です
- 生成AI利用者そのものが全労働者の6.4%(n=1,401人)と少なく、規模別・業種別のクロス集計はさらにn数が小さくなります。本文も「n=40以上でのみ言及する(n<40は外れ値の恐れがあり敢えて言及しない)」と注記しています
- 調査時点は2024年5月〜6月です。生成AIの普及速度を踏まえると、現時点の実態とは乖離している可能性があります
なお、上に挙げた詳細数値はランディングページ(256.html)には掲載されておらず、本文PDF(0256_01.pdf)にのみ記載されています。引用する際は本文PDFを出典として示す必要があります。
読者にとって何を意味するか
中小企業の経営者・情報システム担当にとって、この調査が突きつけるのは1点です。従業員99人以下の職場では、生成AIを使っている社員の4割超が会社の指示なしで使っている。そして全労働者ベースで適切利用のルールがある職場は3.7%しかない。
つまり「導入するかどうか」を検討している間に、実態としてはもう使われている可能性が高い、ということです。判断は「導入する/しない」ではなく「把握して整備する/把握しないまま放置する」の二択になります。
整備といっても大掛かりなものは要りません。この調査から読み取れる優先順位は次の通りです。
- まず利用実態を聞く。会社が把握していない利用があるという前提で、匿名でも構わないので現状を出してもらう
- 禁止規定より先に適切利用の基準を決める。禁止が策定済みの職場は1.9%しかなく、しかも禁止下でも4.1%が使っています
- 入力してはいけない情報(顧客情報・未公開の見積・人事情報など)の線引きを1枚にまとめる
- 作ったら読ませる。策定済み職場でも52.1%が「内容の一部は理解できていない」状態です
- 用途を狭めすぎない。ガイドラインがある職場のほうが用途の平均選択数は3.6と広く(未策定3.2)、抑制と活用は二者択一ではありません
導入の最初の一歩の組み方は中小企業のAI導入、最初の一歩、規模の近い調査との突き合わせは中小企業のAI導入率20.4%の中身を参照してください。
TOEの読み筋
ここからは編集部の解釈です。TOEでは本調査に相当する自社の従業員調査を実施していません。以下は一次データからの推論であり、TOEでの検証結果ではないことを明記します。
注目したのは「企業指示によらず自主的に使用」が99人以下で4割超という点と、禁止規定の「策定の準備を進めている」段階で利用している人が32.8%いるという点の組み合わせです。準備中という宙ぶらりんの期間が、いちばん統制が効かない時間帯になっている可能性があります。禁止の検討に時間をかけるほど、その間の無管理利用が積み上がるという構図です。
もう1つは、ガイドライン策定済み職場の用途平均3.6と未策定3.2という差です。差は0.4なので、これを「ルールが活用を増やす」と因果で読むのは無理があります。むしろ、活用が進んでいる職場だからルールを作った、という逆向きの説明のほうが自然でしょう。ただし少なくとも「ルールが利用を潰す」という主張の根拠にはならない、という消極的な結論は取れます。
そして「補完している」60.4%と「価値を下げている」34.5%が同じ母集団(n=1,854)で併存し、両方に同意した人が26.4%いるという結果。現場は単純に歓迎も反発もしていません。導入の説明を「業務が楽になります」だけで組むと、この26.4%の層には届かないと見ています。スキルの一部が置き換わるという認識を前提にした説明のほうが、実態に合うはずです。
繰り返しますが、これらはTOEで検証した結論ではなく、2024年5月〜6月時点の労働者自己申告データからの推論です。
まとめ
- 全国2.2万人の労働者調査(2024年5月27日〜6月27日)で、仕事に生成AIを使っているのは6.4%(1,401人)、自身がAIを利用しているのは8.4%(1,854人)だった
- 適切利用の社内規定・ガイドラインが「策定されている」は全労働者ベースで3.7%、準備中4.0%を足しても1割未満。ただし「わからない」が47.2%あり、未策定率そのものではない
- 従業員99人以下では、生成AI利用者のうち「企業指示によらず自主的に使用」が4割を超える。中小企業では会社が把握しないまま使われている状態が起きやすい
- ガイドライン策定済み職場の用途平均は3.6(n=487)、未策定は3.2(n=403)。ルールが活用を潰す方向のデータは出ていないが、策定済みでも52.1%が内容の一部を理解できていない
- 発信元のJILPTは独立行政法人であり生成AI製品の提供者ではないが、企業側ではなく労働者の自己認識ベースの調査であること、Web登録モニター調査であること、調査時点が2024年半ばであることは、数字を使う前提として押さえる必要がある