結論から書きます。財務省の全国調査(回答1,103社)で、AI活用企業のうち「業務時間削減」を効果に挙げたのは中小87%・大企業94%とほぼ並びます。しかし「コスト削減」は中小22%・大企業41%と倍近い差。時間は浮いているのに金額に変わっていない、という構図が数字に出ています。

この調査は誰が、いつ、何社に聞いたのか

財務省が令和8年1月29日開催の全国財務局長会議で、各財務局の報告を取りまとめた特別調査「地域におけるAI活用を巡る現状」を読みます(出典:財務省(令和8年1月29日開催の全国財務局長会議において各財務局が報告した内容を取りまとめた資料)、2026-01-29、https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/202504/tokubetu.pdf)。

数字を読む前に、対象範囲を先に確認します。この調査は分母の取り違えが起きやすい構造をしているためです。

項目 内容
回答企業数 1,103社(全国計)
調査期間 2025年12月上旬〜2026年1月上旬
調査方法 全11財務局が管内企業等にヒアリングし、回答を各局が分類
調査対象 各財務局が管内経済情勢報告を取りまとめる際に従来から継続的にヒアリングを行っている企業等
規模別内訳 大企業463社/中堅企業304社/中小企業336社
業種別内訳 製造業490社/非製造業613社
業種別上位 小売業298社、生産用機械器具製造業67社、化学工業60社、食料品製造業59社、建設業57社
効果・用途の設問の分母 「現在AIを活用している」と回答した企業のみ(複数回答可)
非活用理由の設問の分母 「AIを活用していない」と回答した企業のみ(最も大きな理由を1つ選択)

そして、この調査の発信元は財務省そのものです。特定の製品ベンダーによる自社製品の宣伝ではありませんが、地域経済へのAI普及を政策的に後押しする立場にある官庁が、自ら設計し、自ら実施し、自ら公表した調査であることは差し引いて読む必要があります。数字の出どころとして、その立場は読者側で織り込んでください。

「約7割が活用」を全国の代表値として使ってはいけない理由

本調査で「現在」AIを活用していると回答したのは全体で約7割、製造業で約8割、大企業で約9割です(分母は回答企業1,103社)。「約5年前」と「現在」を比較した設問で、いずれの規模・業種でも約5年前から大幅に増えたと本文は記述しています。

ただし、この数字を「日本企業の7割がAIを使っている」と読むのは誤りです。理由は3つあります。

  • 無作為抽出ではない。対象は財務局が従来から継続的にヒアリングしている企業等であり、行政と日頃から接点を持つ層に偏った母集団です。
  • 規模構成が実態と逆転している。回答1,103社のうち大企業が463社(約42%)、中小が336社(約30%)。日本の企業数の大半が中小である実態とは乖離しており、全体値は大企業寄りに引き上げられている可能性が高い。
  • 業種構成が偏っている。非製造業613社のうち小売業だけで298社(回答企業全体の約27%)を占める一方、印刷・同関連業1社、電気業1社、医療・福祉業1社、教育・学習支援業1社など、回答が1桁の業種が多数あります。

つまり本調査の使い道は「全国の普及率を知ること」ではなく、「AIを使っている企業の中で何が起きているかを見ること」です。中小企業の実態を見たいなら、全体値ではなく中小336社の数値だけを使うべきです。同種の調査を分母から読む手順は、中小企業のAI導入率20.4%の中身でも整理しています。

効果は「時間」に集中し、「金額」で止まっている

効果に関する数値を見ます。分母は「現在AIを活用している」と回答した企業のみで、かつ「特段効果を実感していない」と回答した場合を除いた複数回答です。全1,103社が分母ではありません。

効果(全規模・全産業) 実感した企業の割合
業務時間削減 91%
コスト削減 33%
必要人員減少 28%
既存商品等の価値・品質向上 24%
新規商品等の開発等 8%
売上増加 6%
特段効果を実感していない 6%

業務時間削減が91%で突出し、コスト削減・必要人員減少・既存商品等の価値/品質向上は3割前後、新規商品等の開発等と売上増加は概ね1割未満です。効果は「速くなった」に集中し、「儲かるようになった」にはまだ届いていません。

規模別に割ると、この落差はさらにはっきりします。

効果 大企業 中堅企業 中小企業
業務時間削減 94% 88% 87%
コスト削減 41% 30% 22%

業務時間削減は大企業94%・中小87%で7ポイント差しかありません。ところがコスト削減は大企業41%・中小22%で、19ポイント、率にして倍近い差がつきます。時間の浮き方はほぼ同じなのに、金額への転換だけが中小で起きていない、ということです。

なお、この効果はすべて企業の自己申告であり、削減時間や削減金額の実測・検証は行われていません。「効果を実感した」は「効果を測定した」ではない、という点は押さえてください。

用途が「文章作成」で止まっている

金額に届かない理由を、用途の数字が説明しています。分母はAI活用企業、複数回答です。

用途 全体 大企業 中小企業
文章作成 86% 89% 79%
情報検索・収集・調査 74% 83% 60%

中小と大企業の差は、文章作成では10ポイントですが、情報検索・収集・調査では23ポイントに開きます。差がついているのは中心用途そのものではなく、その周辺にどれだけ広がっているかです。業種別では、製造業が「製造・品質管理」37%・「開発・技術支援」33%、非製造業が「顧客分析」30%・「顧客対応」23%と、業務の中核に近い用途が続きます。

そして本調査で最も実務的に効くのが、用途数と効果の関係を見た分析です。用途は「文章作成」「情報検索・収集・調査」「財務・経営分析」「顧客分析」「顧客対応」「製造・品質管理」「在庫・調達管理」「開発・技術支援」「教育・研修支援」「採用支援」「AIロボティクスによる業務補助」「その他」の12分類で、用途数別の企業数は次のとおりです。

活用している用途数 企業数
1つ 151社
2つ 242社
3つ 161社
4つ 111社
5つ以上 166社

本文は、用途数が増えるほどコスト削減・既存商品等の価値/品質向上・必要人員減少・新規商品等の開発・売上増加の実感割合が高くなる、と記述しています。ただし各群の実感率の具体的な数値はグラフのみで、本文に数値表記がありません。したがって確定できるのは傾向だけで、「用途を3つに増やせばコスト削減率が何ポイント上がる」といった書き方はできません。

さらに重要なのは、これが相関であって因果ではないことです。用途を広げたから効果が出たのか、効果が出ている企業だから用途を広げられたのか、この資料からは切り分けられません。逆向きの説明は排除されていません。

止まっている理由はコストではなく体制

AIを活用していない企業に、最も大きな理由を1つ選ばせた設問です(分母はAIを活用していない企業のみ)。

活用していない最大の理由 割合
人材・スキル・体制が不十分 約4割(グラフ上は42%)
活用する必要性を感じない 約2割
各種リスクへの不安 約15%
導入・運用コスト 1割未満

導入・運用コストは1割未満です。止めているのは金ではなく、動かす人と体制でした。しかも本文は「その割合は大企業よりも『中堅』『中小』の方が高かった」と明記しています。ただし規模別の具体的なパーセンテージはグラフのみで判読困難なため、ここでは断定的な数値引用は避けます。

個別業種では、自動車同附属品製造業(同業種の回答40社、うちAI活用企業が分母)でコスト削減56%、必要人員減少47%、既存商品等の価値・品質向上39%と、全体平均を大きく上回ります。機械系業種でも生産用機械33%、電気機械33%が「既存商品等の価値・品質向上」を認識しています。ただし回答数が数十社規模の業種の割合は数社の増減で大きく振れるため、業種別数値の一般化はできません。

読者にとって、これは何を意味するか

中小企業の経営者・情報システム担当として、この調査から持ち帰れるのは次の3点です。

  • 自社が「文章作成だけ」で止まっているなら、それは平均的な状態です。中小のAI活用は文章作成79%・情報検索60%に集中しており、多くの会社が同じ場所にいます。
  • 時間が浮いているのにコストが下がらないのは、自社の運用が悪いからとは限りません。中小22%・大企業41%という差は、業界全体で起きていることです。浮いた時間を何に振り替えるかを決めていない限り、金額は動きません。
  • 人が足りない・スキルがないという理由でAIを保留しているなら、それは非活用企業の約4割と同じ判断です。コストを理由にしている企業は1割未満で、ここは多数派の悩みではありません。

行動に落とすなら、「用途を1つから2つ、3つへ広げる」が本調査から読める最も現実的な次の一手です。ただし前述のとおりこれは相関であり、広げれば必ず効果が出るという保証ではありません。最初の一歩の踏み方は中小企業がAIで最初にやるべきこと、金額換算の考え方はAIのコスト構造で扱っています。

TOEの読み筋

ここからはTOEの解釈です。TOEでは本調査の追試や、同じ設計での自社調査は未実施です。以下は資料の数値からの読み筋であり、TOEの実測ではありません。

時間削減と金額削減の間に空いている19ポイントの正体は、おそらく「浮いた時間の受け皿」です。大企業は工数を予算や人員計画と紐づけて管理しているため、時間が浮けば配置換えや外注削減として金額に現れます。中小は一人が複数業務を兼ねているため、浮いた時間はそのまま別の作業に吸われ、帳簿上どこにも現れない。同じAIを同じように使っても、時間が金額に翻訳される経路が組織側にあるかどうかで結果が変わる、という仮説です。

だとすると、中小が最初に手を付けるべきは新しいツールではなく、「どの業務が何時間減ったか」を記録する仕組みのほうです。用途を広げる前に、今の1用途で浮いた時間を測っておかないと、広げた後も金額に届いたかどうかを判断できません。

この読み筋の弱点も書いておきます。本調査は自己申告ベースで、時間もコストも実測されていません。「業務時間削減91%」も「コスト削減33%」も、回答者の体感を各財務局が分類したものです。そもそも「AIを活用している」の定義(生成AIを試しに使った程度で含むのか、業務に組み込んでいることを要するのか)が資料に示されていません。定義が緩ければ活用率は上振れし、効果率は下振れします。ここは資料の限界として残ります。

調査方法にも注意点があります。統一設計のアンケートではなく、各財務局のヒアリング内容を事後に分類したものです。分類基準の局間差や、聞き手が目の前にいることによる回答バイアスが入りうる形式です。

資料後半には各財務局が選んだ「特徴的な取組」の事例集が載っていますが、これは成功事例に偏った選択的な紹介です。事例中の数値(在庫2割削減、年間800万円超削減など)は個社の自己申告であり、母集団の平均ではありません。参考にはなっても、自社の見込み値として使えるものではありません。

なお、発信元自身が認める限界も資料に含まれています。事例集に登場する東杜シーテックからは「AI技術の社会実装に際しては開発と導入に相応のコストがかかるものであり、双方において各種補助金等を活用して取り組んでいるものの、その規模は決して十分とは言えないのが実情」との声が掲載されています。政策的にAI普及を後押しする立場の資料に、支援規模が十分でないという現場の声が併記されている点は、読み取っておく価値があります。

まとめ

  • 財務省が2026年1月29日の全国財務局長会議で公表した特別調査。回答1,103社(大企業463社・中堅304社・中小336社、製造業490社・非製造業613社)、調査期間は2025年12月上旬〜2026年1月上旬。
  • 「現在AIを活用」は全体で約7割だが、対象は財務局が継続的にヒアリングしている企業等で無作為抽出ではなく、大企業が約42%を占める。全国の代表値としては使えない。
  • AI活用企業における効果は業務時間削減91%に集中し、コスト削減33%、売上増加6%。中小のコスト削減は22%で、大企業41%と倍近い差がある(分母はいずれもAI活用企業、複数回答)。
  • 中小の用途は文章作成79%・情報検索60%に偏る。用途数が増えるほど効果の実感率が高いという傾向は示されたが、グラフのみで各群の数値はなく、相関であって因果ではない。
  • 活用していない最大の理由は「人材・スキル・体制が不十分」が約4割(グラフ上は42%)で、導入・運用コストは1割未満。効果はすべて自己申告で実測・検証はされておらず、TOEでも本調査の追試は未実施。