結論から書きます。従業員30人以上の日本企業でAI周辺技術を活用しているのは14.2%、RPAは13.3%(企業調査n=1,971)。一方でWebミーティング55.3%、クラウドでの社内情報共有50.8%は過半数を超えています。AIはまだ先行余地、通信と情報共有は未対応なら明確な遅れ、という読み方になります。

この調査は誰が何を測ったのか

独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)が2025年12月24日に公表した調査シリーズNo.261「新たなテクノロジーに応じた労働の質の向上に向けた人材戦略に関する調査」を読みます(出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)/調査シリーズNo.261、2025-12-24、https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/261.html)。

数字を読む前に、分母と対象を確認します。この種の調査で最も事故が起きるのは、割合そのものではなく分母の取り違えだからです。

項目 内容
実施主体 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)
資料 調査シリーズNo.261(2025年12月24日公表)
企業調査の対象 全国の従業員30人以上の企業10,000社に発送
労働者調査の対象 対象企業を通じ正社員60,000人分(1社あたり6部)を配布
調査期間 2025年2月7日〜3月5日
調査時点 2025年1月末日
有効回収 企業2,004件(回収率20.04%)/労働者7,291件(回収率12.15%)
本記事で扱う設問の分母 活用状況 n=1,971/活用への認識 n=1,850/期待項目 n=1,973〜1,982(いずれも無回答を除く)

利害関係を先に明示します。この調査はJILPT自身が設計・実施し、JILPT自身が公表したものです。JILPTは労働政策の調査研究を担う独立行政法人であり、中立の第三者が外形的に検証した数字ではなく、実施主体が自ら集計・記述した結果である、という位置づけで読む必要があります。あわせて、この記事を書いているAIの鬼は株式会社TOEが運営するメディアで、TOEは中小企業向けにAI導入の支援を提供する事業者です。「AI活用はまだ14.2%=先行余地がある」という読み筋は、当社の商売と利害が一致する方向の解釈にあたります。そのうえで以下を読んでください。

実測値:AI周辺技術14.2%、RPA13.3%、いずれも未着手23.0%

企業調査のテクノロジー活用状況(複数回答、n=1,971、無回答を除く)の実測値です。

項目 活用している企業の割合
Webミーティングツール 55.3%
クラウドを活用した社内の情報共有 50.8%
テレワークの活用 19.5%
AI(人工知能)周辺技術(画像・言語認識技術、生成AI等) 14.2%
RPA(定型業務の自動化ツール) 13.3%
製造工程などにある自動化ロボット 7.5%
肉体労働をサポートするロボット(介護ロボットを含む) 5.0%
接客ロボット等(セルフオーダー、セルフレジを含む) 2.5%
以上のいずれも取り組んでいない 23.0%

読み取れることを3点に絞ります。

  • 上位2項目(55.3%、50.8%)はコロナ禍を経て定着した通信・情報共有の基盤で、ここが未対応なら「様子見」ではなく明確な遅れにあたります。
  • AI周辺技術14.2%とRPA13.3%は近い水準で、どちらも8割以上が未着手です。出遅れを焦る根拠には乏しく、むしろ先行余地の根拠になります。
  • 物理的なロボット(7.5%/5.0%/2.5%)は設備投資を伴うため桁が違います。ソフトウェア側と同列に「AI化」と括ると判断を誤ります。

そして「いずれも取り組んでいない」23.0%について、報告書本文は従業員規模別に「規模が小さくなるほど高い」と明記しています。つまり従業員30人台の企業は、全体平均の23.0%より高い側にいる前提で計画を立てるのが妥当です。ここは自社を平均に当てはめないほうがいい箇所です。

業種で差が出る。焦るべき業種と、そうでない業種

業種別集計(各業種n=15以上のみ集計、無回答を除く)では、以下の差が示されています。実数値は図表内にあり、本文の記述は「全体より5ポイント以上高い業種」という粒度にとどまります。

  • AI周辺技術の活用割合が全体より5ポイント以上高い業種:情報通信業、学術研究・専門技術サービス業、金融業・保険業、不動産業・物品賃貸業
  • RPAで全体より5ポイント以上高い業種:金融業・保険業、学術研究・専門技術サービス業、不動産業・物品賃貸業、情報通信業、製造業
  • 「いずれも取り組んでいない」が全体より5ポイント以上高い業種:運輸業・郵便業、医療・福祉、生活関連サービス業・娯楽業

自社がどちら側かで、意思決定の緊急度が変わります。前者4業種の中小企業は、同規模の競合がすでに動いている前提を置いたほうが安全です。後者3業種は、同業比較で焦る必要は薄い。ただし「業界がやっていないから不要」ではなく「業界がやっていないから先に出られる」という読み方もできる、という点は書き添えておきます。中小企業全体の導入状況を別の一次資料で確認したい場合は中小企業のAI導入率20.4%は、どの部門で何に使われているのか?と突き合わせると、対象範囲の違いが見えます。

企業側の期待は「生産性」より「人手不足」と「雑務」で語れ

新たなテクノロジーが職場で活用されていくことについて、企業の92.5%(非常に良いことだと思う42.2%+やや良いことだと思う50.3%、単一回答、n=1,850、無回答を除く)が肯定的でした。否定側は「あまり良いことだと思わない」6.4%、「良くないことだと思う」1.1%です。

導入された場合の期待(そう思う・計=「そう思う」+「ややそう思う」、n=1,982ほか、無回答を除く)は次の並びです。

期待項目 そう思う・計
労働生産性が向上する 68.1%
煩雑なタスクから解放される 68.0%
人手不足が解消される 60.5%
従業員が専門性の高い業務に集中できる 58.4%
身体への負担が軽減される 58.2%
従業員の労働時間が減る 57.6%
自社の製品・サービスの品質が向上する 43.2%
危険な仕事が減る 37.7%
従業員の仕事での創造性が増す 37.6%
自社の製品・サービスの競争力が高まる 36.2%

懸念側(そう思う・計、無回答を除く)は、「どのような影響があるか分からず不安」48.3%が最上位で、「従業員の仕事内容が変わることに不安」32.6%、「職場で取り残されることが心配」30.4%、「従業員の仕事が奪われるのではないか」29.5%、「仕事の進捗管理が強化される可能性があることが心配」28.0%と続きます。

注意点として、92.5%も68.1%も企業調査の結果です。働く人(労働者調査)の回答として引用してはいけません。ここは混同されやすい箇所です。

この調査で言えないこと

一次資料を扱う以上、限界を先に書きます。

  • 対象は「全国の従業員30人以上の企業」に限定されており、従業員29人以下の零細企業は含まれません。この結果を中小・零細企業全体の実態として一般化すると事実誤認になります。
  • 労働者調査は対象企業を経由して正社員に配布されたため、回答企業の偏りがそのまま労働者側にも及びます。非正規雇用者は対象外です。
  • 有効回収率は企業20.04%、労働者12.15%と低く、テクノロジー活用に関心の高い企業ほど回答しやすい自己選択バイアスの可能性があります。作用の方向としては、活用割合が実態より高く出る側です。
  • 図表ごとに分母が異なります。活用状況はn=1,971、活用への認識はn=1,850、期待項目はn=1,973〜1,982で、いずれも無回答を除いた集計であり、有効回収2,004社そのものではありません。
  • 業種別集計は各業種n=15以上に限られ、少数サンプル業種の数値は安定性が低い。本文の記述も「全体より5ポイント以上高い業種」にとどまり、業種別の実数値は図表内にしかありません。
  • 調査時点は2025年1月末日です。生成AIの普及速度を踏まえると、現時点の活用割合はこれより高い可能性が高い。
  • 「AI周辺技術」は画像・言語認識技術と生成AI等をまとめた区分で、生成AI単独の活用率は分離されていません。14.2%を「生成AIの利用率」と読むことはできません。

読者にとって何を意味するか

従業員30人以上の企業が対象なので、多くの中小企業に直結します。実務的な含意は3つです。

第一に、自社の位置を測る物差しが手に入ります。Webミーティング55.3%とクラウド情報共有50.8%は過半数の企業が済ませている領域で、ここが未対応なら優先度はAIより上です。逆にAI周辺技術14.2%・RPA13.3%の段階で着手していないことは、現時点では平均的な状態にすぎません。

第二に、社内を説得する言葉が変わります。企業の期待の上位は「労働生産性が向上する」68.1%と並んで「煩雑なタスクから解放される」68.0%、「人手不足が解消される」60.5%です。抽象的な生産性向上より、誰のどの雑務が消えるのか、どの欠員を埋めるのか、という文脈のほうが関心と合致します。最初の一歩の選び方は中小企業が最初にAI化すべき業務の見つけ方、少人数での定着のさせ方は少人数チームでAIを定着させる進め方にまとめています。

第三に、懸念の最大値が「どのような影響があるか分からず不安」48.3%だという点です。これは技術の問題ではなく説明の問題です。導入前に、何が変わって何が変わらないかを社内に文章で出しておくだけで、この48.3%の一部は減らせます。効果が見えやすい入口としては議事録作成をAIに任せるとどこまで実務に耐えるのかのような、成果物が目に見える業務が扱いやすい部類です。

TOEの読み筋

以下はTOEの見立てであり、この調査に関するTOEでの追試・検証は未実施です。同種の調査を自社で実施したこともありません。

読み筋は「14.2%という数字は、上振れしている可能性を織り込んでも低い」というものです。回収率20.04%という水準を踏まえれば、回答した企業はテクノロジーに関心がある側に寄っている蓋然性があります。それでも14.2%です。裏を返せば、2025年1月末時点の日本企業の大半は、生成AIを含むAI周辺技術に手をつけていなかった。この事実は、遅れの証明ではなく、着手のタイミングがまだ残っているという読み方をするのが妥当だと考えています。

もう一点。期待項目で「自社の製品・サービスの競争力が高まる」が36.2%と最下位グループにある点は、注目に値します。企業の多くはAIを、競争力ではなくコストと人手の問題として見ている。この見立て自体が悪いわけではありませんが、削減目的の投資は削れる時間が尽きた時点で頭打ちになります。効率化から入るのは定石として、目的リストに一項目だけ品質か競争力の側を残しておく。これはTOEが自社で実践している方針であり、この調査から因果として導けるものではありません。

まとめ

  • 企業調査(n=1,971、無回答除く、全国の従業員30人以上の企業10,000社に発送、2025年2月7日〜3月5日実施、調査時点2025年1月末日)で、AI周辺技術の活用は14.2%、RPAは13.3%
  • Webミーティング55.3%、クラウド情報共有50.8%は過半数が導入済みで、ここが未対応なら明確な遅れ。テレワークは19.5%
  • 「いずれも取り組んでいない」は23.0%で、本文は規模が小さいほど高いと明記。30人規模の企業は平均より高い側にいる前提で計画すべき
  • 業種差は明確で、情報通信業・学術研究・専門技術サービス業・金融業・保険業・不動産業・物品賃貸業はAI周辺技術が全体より5ポイント以上高い。運輸業・郵便業、医療・福祉、生活関連サービス業・娯楽業は未着手が5ポイント以上高い
  • 企業側の期待は労働生産性68.1%、煩雑なタスクからの解放68.0%、人手不足の解消60.5%。懸念の最上位は「どのような影響があるか分からず不安」48.3%で、これは説明で減らせる部分がある
  • 限界として、対象は従業員30人以上に限られ29人以下は含まれない、回収率は企業20.04%・労働者12.15%と低く自己選択バイアスの可能性がある、図表ごとに分母が異なる、「AI周辺技術」は生成AI単独の数値ではない、調査時点は2025年1月末日である、という点を外さずに引用すること