結論から書く。IPAがDX推進指標の自己診断結果1,164件を分析したところ、成熟度の現在値の平均は1.98、目標値の平均は3.51、その差は1.53だった。現在値の平均がレベル4以上に達した企業は38社・3%。ただし対象は任意提出企業に限られ、数値はすべて自己申告である(出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)デジタルトランスフォーメーション部、2026-05-15、https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260515.html)。

一次資料の実測:1,164社の平均現在値は1.98、目標値は3.51

IPAデジタルトランスフォーメーション部が2026年5月15日に公表した「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2025年版)」の数字を、条件つきで並べる。

DX推進指標は0〜5の6段階で成熟度を自己評価する仕組みで、企業は「現在値」と「目標値」の両方を申告する。2025年1月1日から12月31日までに提出された自己診断結果は1,241件。このうち重複・不備等の77件(提出件数の約6.2%)を除外した1,164件が分析対象となった。

まず対象範囲を明示する。調査ものは分母を書かないと何の意味も持たない。

項目 条件
提出件数 1,241件 2025年1月1日〜12月31日の提出分。任意提出
分析対象件数 1,164件 提出1,241件から重複・不備等77件(約6.2%)を除外
評価尺度 0〜5の6段階 企業による自己診断・自己申告
申告項目 現在値・目標値 成熟度(全指標)、経営視点指標、IT視点指標

そのうえで、平均値は次のとおりだった(いずれもn=1,164社、2025年提出分)。

  • 成熟度(全指標)の現在値の平均:1.98
  • 成熟度(全指標)の目標値の平均:3.51
  • 現在値平均と目標値平均の差分:1.53
  • IT視点指標の平均:現在値1.97/目標値3.50
  • 経営視点指標の平均:現在値1.98/目標値3.51

注目すべきは、経営視点指標とIT視点指標がほぼ同じ水準に並んでいる点だ。現在値は1.98と1.97、目標値は3.51と3.50。差分はどちらも1.53で一致している。「経営が遅れているからITが進まない」あるいはその逆、という単純な図式は、この平均値からは読み取れない。両方が同じだけ低く、同じだけ遠い目標を掲げている。

分布で見る:レベル4以上は38社・3%、最頻値はレベル1台

平均だけでは実像がぼやける。現在値平均の分布は次のとおりだった(n=1,164社、2025年提出分)。

現在値平均の区分 企業数 位置づけ
0以上1未満 209社 未着手に近い
1以上2未満 393社 最頻値。散発的な実施
2以上3未満 371社 部分的な実施
3以上4未満 153社 全社展開の途上
4以上 38社 全社的に定着

最も多いのは「1以上2未満」の393社である。そして「0以上1未満」の209社と合わせると602社、分析対象1,164社の約52%が現在値2未満に位置する。DX推進指標の定義でいえば、散発的・部分的な実施にとどまっている状態だ。

反対の端、現在値平均がレベル4以上——全社的にDXが定着している状態——に到達したのは38社、3%にすぎない。100社集めて3社という比率である。

そしてこの3%という数字は、後述するとおり「日本企業の3%」ではない。「DX推進指標の自己診断結果を任意提出した企業の3%」である。この区別は本記事でいちばん重要な点なので、次章で分けて書く。

この数字の限界:分母は「日本企業」ではなく「提出した企業」

数字を使う前に、使えない範囲を確定させる。今回のレポートには、読者が押さえておくべき制約が複数ある。

第一に、対象は自己診断結果を任意提出した企業に限られる。提出は義務ではなく企業側の自己選択だ。一般に、この種の任意提出型の調査では関心の高い層ほど提出する傾向が想定される。したがって1,164社という母集団は日本企業全体の縮図ではない。「日本企業の3%しかDXが定着していない」と書くことはできず、「提出企業の3%」と書かねばならない。

第二に、数値はすべて企業自身による自己診断・自己申告である。第三者による客観評価ではない。IPA自身がその旨を明記している。自己評価には甘くつける方向にも厳しくつける方向にもぶれる余地があり、社内の評価文化によって基準が揃わない。

第三に、今回取得した本文からは、従業員規模別・業種別の構成比を確認できなかった。中小企業やDX認定企業が分析に含まれる旨の言及はあるものの、その内訳が不明である以上、この1.98という平均を「中小企業の実態」として断定的に用いることはできない。

第四に、利害関係の問題がある。この記事が扱うレポートは、DX推進指標そのものの提供者・作成主体であるIPA自身による発表であり、同機構は当該指標の提供者である。 発信の目的には自己診断のさらなる活用促進が含まれており、第三者による中立的な評価ではない。だからといって数字が誤っているという意味ではないが、読者は数字の出どころを踏まえて解釈する必要がある。

第五に、経年比較には使えない。分析対象1,164件はn数として十分だが、前年以前との比較数値は今回取得した本文からは確認できていない。「改善した」「悪化した」という時系列の主張は、この記事の範囲では成立しない。

このあたりの「自己申告データをどこまで信じるか」という論点は、自社の評価基準を持つという話とも地続きだ。

読者への意味:中小企業が「遅れている」と焦る根拠は薄い

では、中小企業の経営者・情報システム担当にとって、この数字は何を意味するのか。

第一に、焦る必要は薄い。分析対象1,164社の約52%(602社)が現在値2未満にとどまっている。この母集団には、任意提出という性質上むしろDXに関心の高い企業や、相応の規模の企業も含まれていると考えられる。それでも過半が散発的・部分的な段階にいる。「うちだけが遅れている」という前提で予算や人員の判断を歪めるのは、少なくともこのデータからは支持されない。

第二に、1.53という差分の意味である。目標値の平均3.51は、多くの企業が「全社的な展開」を志向していることを示す。一方で現在値は1.98。掲げた目標と足元の実行が1.53ぶん離れている。これは能力の問題というより、目標の置き方と着手範囲の設計の問題として読むほうが実務的だ。全社DXを掲げること自体は難しくないが、掲げた瞬間に対象範囲が広がり、実行が追いつかなくなる。

第三に、経営視点1.98とIT視点1.97がほぼ同水準という事実である。片方だけを引き上げても平均は動きにくい。ツール導入だけでも、経営方針の宣言だけでも、この構造は変わらない。

具体的な着手の考え方は、中小企業がAIで最初にやることや、少人数チームでの導入の進め方で扱った内容と重なる。範囲を絞り、経営の関与と現場の実装を同じ案件の中に入れる、という設計だ。

TOEの読み筋:小さな範囲で「経営とITを同時に一段」上げる

ここからはTOEの解釈である。前提として、TOEではDX推進指標の自己診断の提出・分析は未実施であり、以下は本レポートの数字と当社のクライアント支援での見立てに基づく読み筋にすぎない。検証済みの手法として提示するものではない。

読み筋は三点ある。

  • 全社DXを掲げる前に、1つの業務で現在値を2から3に上げる。 分布の山は1台と2台にある。ここから3台へ動かすことが、平均を動かす最短距離になる。全社4を目標に置くのは、1.53の差分をさらに広げる方向に働きやすい。
  • 経営とITを別の案件に分けない。 経営視点1.98とIT視点1.97が揃って低いという事実は、両者が同じボトルネックを共有している可能性を示す。経営層が意思決定に関与しない実装は部分最適で止まり、実装を伴わない方針は現在値に反映されない。
  • 自己診断の値そのものをKPIにしない。 自己申告である以上、点数は運用次第で動く。使うべきは点数の絶対値ではなく、「どの指標がなぜ低いか」を社内で言語化する過程のほうだ。

なお、日本の中小企業におけるAI・デジタル活用の実態については中小機構の調査も併せて読むと、母集団の違いによる見え方の差が把握しやすい。任意提出型と抽出型では、同じ「実態」を語っていても分母が異なる。

まとめ

  • IPAの分析対象は1,164件(提出1,241件から重複・不備等77件・約6.2%を除外、2025年1月1日〜12月31日提出分)。成熟度の現在値の平均は1.98、目標値の平均は3.51、差分は1.53。
  • 現在値平均がレベル4以上に到達したのは38社・3%。一方で209社+393社=602社、約52%が現在値2未満にとどまる(分母はいずれも1,164社)。
  • 経営視点指標は現在値1.98/目標値3.51、IT視点指標は現在値1.97/目標値3.50。差分はどちらも1.53で、片側だけが遅れている構図ではない。
  • 数字はすべて任意提出企業の自己診断・自己申告であり、日本企業全体には一般化できない。規模別・業種別の構成比も本文からは確認できず、経年比較にも使えない。発信元のIPAは指標そのものの提供者である。
  • TOEでは自己診断の提出・分析は未実施。そのうえでの読み筋は、全社展開を掲げる前に1業務で現在値を2から3へ動かし、経営の関与とITの実装を同じ案件に入れること。