結論を先に

米国のAI普及率は、企業数ベースで18%、就業者ベースで40.7%、雇用ウェイトで78%。どれも正しく、どれも同じものを測っていません。分母が企業数か個人か労働力かで数字は4倍以上ずれます。自社の遅れを判断する前に、その「◯%」の分母を確かめてください。

(出典:Federal Reserve Board(FEDS Notes、著者 Jeffrey S. Allen)。ただし本文に「本稿の見解は著者個人のものであり、連邦準備制度理事会の見解を反映するものと解釈されるべきではない」との免責記載あり、2026-04-03、https://www.federalreserve.gov/econres/notes/feds-notes/monitoring-ai-adoption-in-the-u-s-economy-20260403.html


まず、この記事の利害関係と発信元の位置づけを明かします

この記事を書いている株式会社TOEは、中小企業向けにAI導入の支援を行っている会社です。「AI導入はまだ多数派ではない」「だが伸びている」という論点は、そのままTOEの営業材料になり得ます。この記事の内容についてTOEは明確な利害関係者です。都合のいい数字だけを拾っていないか、疑いながら読んでください。

発信元についても明記します。今回の一次資料はFederal Reserve Board(FRB)のFEDS Notesであり、著者はJeffrey S. Allen氏です。これは製品ベンダーによる自社製品の発表ではなく、中央銀行スタッフによるノートです。ただし査読論文ではありません。本文には「本稿の見解は著者個人のものであり、連邦準備制度理事会の見解を反映するものと解釈されるべきではない」との免責が付されています。FRBの公式見解として引用するのは誤りです。

そして、この種の調査をTOEは自社では実施していません。以下の「読み筋」はすべて、TOE未実施を前提とした読み方の提案です。


3つの調査は、それぞれ何を分母にしているのか

このノートが扱うのは3つの調査です。数字の大小より先に、分母を確認します。

調査 数値 時点・n数 分母(ここが違う)
BTOS(米国センサス局 Business Trends and Outlook Survey) AI利用企業 18% 2025年12月時点。母集団約120万社、直近調査の平均回答数 約2万件 企業ウェイト=全米企業数に占める割合。母集団の大半は小規模企業
RPS(Real-Time Population Survey、GenAIモジュール) 仕事でGenAI利用 40.7%(本文の丸め表記では41%) 2025年11月時点。2024年8月以降四半期実施、1回あたり回答5,000〜6,000件 全国代表の成人のうち、労働力人口に属する回答者(個人ベース。企業ベースではない)
SBU(Survey of Business Uncertainty、アトランタ連銀等) AI採用企業に勤める労働者 78% 2025年11月、n=1,032。企業経営幹部を対象に月次実施 雇用ウェイト=「AIを採用した企業で働く労働力の割合」。企業数ベースではない

BTOSは母集団約120万社を2週間ごとに調査し、20万社のコホートを12週ごとに巡回させる設計です。サンプルは年次でリセットされ、1社あたり4〜5回回答します。

SBUでは、LLMを採用した企業に勤める労働者の割合が54%(2025年11月、n=1,032、雇用ウェイト、分母は労働力)とも報告されています。

この3つを並べて「AI普及が進んだ」と論じるのは誤りです。著者自身が、3調査は同じものを測っていないと明記しています。


78%を「8割の会社が導入済み」と読むと事実誤認になる

中小企業の経営者が最も引っかかりやすいのがSBUの78%です。これは「78%の企業が導入済み」という意味ではありません。「AIを導入した企業に勤める労働者が、労働力全体の78%を占める」という意味です。分母は労働者であって企業ではありません。

  • 従業員1万人の企業が1社導入すれば、雇用ウェイトでは1万人分が「導入済み側」に計上される
  • 従業員5人の企業が100社未導入でも、雇用ウェイトでは500人分にしかならない
  • つまり雇用ウェイトの数字は、構造的に大企業の動向を映す

加えてSBUは回答者が企業経営幹部でn=1,032と小さく、雇用集中を通じて大企業が実質的にオーバーサンプルされます。母集団の大半が小規模企業であるBTOSとは、母集団構成そのものが根本的に異なります。

著者は、BTOSとSBUの乖離について「異なるサンプリング分布と企業規模階級間の採用率の異質性の組み合わせが、乖離のかなりの部分を生んでいる可能性が高い」と述べています。裏を返せば、著者自身、乖離を完全には説明できていないことを認めています。

「8割の会社が導入済み、うちは出遅れ」という読み方は、この時点で成立しません。


企業数ベースで見ると、まだ多数派は未導入。ただし伸び率は高い

実際の企業数ベース(BTOS、企業ウェイト、分母は全米企業数)では、2025年12月時点でAIを利用している企業は18%です。多数派はまだ未導入です。

一方で、2025年9月までの1年間で3.9ポイント増、成長率にして68%(企業ウェイト、分母は全米企業数)。水準は低いが、増加は速い。

業種別では、専門サービス33%、金融30%(いずれもBTOS、2025年末時点、企業ウェイト、分母は当該業種の全企業)と、業種によって差があります。

  • 焦って導入する局面ではない(多数派がまだ未導入)
  • 放置していい局面でもない(年68%の増加率)
  • 業種によって前提が違う(専門サービス33%と全体18%を同じ土俵で比べない)

なお本文は、最小規模層(1〜49人)が規模から予測される以上に採用が進んでいると指摘しています。「小規模だから導入できない」という前提は、少なくともこのデータでは支持されません。ただし著者は、AIが小規模企業の競争を助けているのか、もともと競争力のある企業が使っているだけなのか、因果関係は不明としています。数字の向きだけを都合よく借りることはできません。


経営者の感覚と現場の実態はずれる ― 著者が挙げる2つのバイアス

このノートで実務的に一番効くのは、調査手法の話です。著者は経営層回答調査について2点を指摘しています。

  • 情報の非対称性:経営幹部は全社の状況を把握しやすい立場にあり、現場個人より広く「使われている」を見る
  • 社会的望ましさバイアス:効率化施策としてAI導入を報告する圧力が働く

SBUの高い数値は、この影響を受けている可能性があります。裏返せば、自社のAI利用実態を経営者の感覚だけで把握するとズレるということです。現場に使用頻度を直接聞く必要があります。

その際のベンチマークとして使えるのが個人ベースのRPS(2025年11月時点、分母は労働力人口の回答者)です。

  • 仕事でGenAI利用:40.7%(前年比+9.7ポイント、変化率31.3%)
  • 週1回以上利用:35.2%(前年比+8.9ポイント、変化率33.7%)
  • 毎日利用:12%(前年比+2.9ポイント、変化率32%)

また、仕事以外でのGenAI利用は2025年11月までの1年間で10.4ポイント増、26%増(分母は全回答者。業務利用とは別系列)です。

「使ったことがある」ではなく「週1回以上使っているか」「毎日使っているか」を自社で聞くと、経営者の体感との差が見えます。測り方の設計は自分の評価基準を持つの考え方と地続きです。


この数字を使うときに残る限界

不都合な点も含めて、著者が示した限界を並べます。

  • BTOSは当初、AI利用を「財・サービスの生産において」と狭く限定して質問しており、実質的な利用のみを捕捉して過小推計となっていた可能性を著者が指摘している。時系列比較には質問文変更の影響が混入しうる
  • BTOSの「わからない」回答率が該当調査期間で約10〜11%あり、この層の扱い次第で採用率推計は上下しうる
  • 本文が対比として挙げるGallup調査(2025年半ば時点、AIを毎日利用する労働者8%)とRPS(2025年11月時点、12%)は、時点も調査手法も分母も異なる。差分がすべて増加分とは言えない
  • FEDS Notesは査読論文ではなくスタッフによるノートであり、著者個人の見解である旨の免責が付されている
  • これは米国の調査であり、日本の中小企業の普及率をそのまま示すものではない

最後の点は重要です。読み方の枠組み(分母を確認する、雇用ウェイトと企業ウェイトを混ぜない)は日本にそのまま転用できますが、数値そのものの直接適用はできません。日本国内の調査を見る際も、総務省・中小企業庁・民間ベンダーの各調査で分母が何かを同じ手順で検算する必要があります。


TOEの読み筋(TOEでは未実施)

繰り返しますが、TOEはこの種の統計調査を自社では実施していません。そのうえで、実務者としての読み筋を3つ書きます。

第一に、社外の「AI導入率◯%」を見たら、まず分母を探すこと。企業数か、個人か、雇用ウェイトか。分母が書かれていない記事は、判断材料として使わない方が安全です。

第二に、自社の遅れを測るなら企業数ベース(今回なら18%)を見ること。雇用ウェイトの78%は大企業の動向であり、従業員数十人の会社の比較対象になりません。ここを取り違えると、必要のない焦りで導入判断を歪めます。

第三に、自社の実態は経営者の感覚ではなく、現場への頻度質問で測ること。「毎日12%・週1回以上35.2%」(RPS、2025年11月、分母は労働力人口の回答者)は、比較の目安になります。導入の最初の一歩の考え方は中小企業のAI導入・最初の一歩に、少人数チームでの進め方は少人数チームのAI導入にまとめています。


まとめ

  • 米国のAI普及率は、企業数ベース18%(BTOS、2025年12月、母集団約120万社)、就業者ベース40.7%(RPS、2025年11月、分母は労働力人口の回答者)、雇用ウェイト78%(SBU、2025年11月、n=1,032)と、分母によって4倍以上ずれる
  • SBUの78%は「AI導入企業に勤める労働者が労働力の78%」であり、「78%の企業が導入済み」ではない。中小企業の実態としてそのまま使うと事実誤認になる
  • 企業数ベースではまだ多数派が未導入(18%)だが、2025年9月までの1年間で3.9ポイント増・成長率68%と伸びは速い
  • 経営層回答調査には情報の非対称性と社会的望ましさバイアスが働くと著者が指摘しており、自社の実態は現場への頻度質問で測る必要がある
  • 一次資料はFEDS Notesであり査読論文ではなく、著者個人の見解である旨の免責が付されている。米国の調査であるため、読み方の枠組みは転用できても数値の直接適用はできない。TOEはこの種の調査を自社では実施していない