先に結論を書きます。AIに任せてうまくいくのは「入力と出力の形が決まっていて、毎回必ず発生する仕事」です。 弊社で27本の業務を自動化した結果、経理は13本自動化できたのに、マーケティングは1本しかできませんでした。しかも一番「AIらしい」はずの毎朝の集計には、AIモデルをあえて使っていません。この記事は、その偏りと設計判断の理由を書くものです。
株式会社TOEでは、社内の定型業務をcron(決まった時刻にコマンドを自動実行するUNIXの標準機能)に載せて回しています。登録されているジョブは27本。この数字は、実際に稼働中のサーバーで設定を確認したものです。
「AI秘書」なのに、AIモデルを呼んでいない
弊社には平日の朝8時に経営状況を1枚にまとめる「日次ブリーフィング」というジョブがあります。社内では「AI秘書」と呼んでいます。
ところが、このジョブはClaudeやChatGPTのような大規模言語モデル(文章を理解・生成するAI)を1回も呼び出していません。やっているのは、経営データのテキストファイル4本を読んで、条件で絞り込んで、並べ替えて、1枚のファイルに書き出すことだけです。スクリプトは110行しかありません。
なぜAIを使わないのか。毎朝同じ形式で出てくることに価値がある処理だからです。 例えば「健全度が危険で、かつランクがS・Aの顧客だけを抜き出す」は、AIに頼まなくても条件式で書けます。ここにAIモデルを挟むと、悪いことしか起きません。
- 日によって抽出の基準が揺れる
- 出力の形式が変わってしまう
- 失敗したとき、原因が追えなくなる
- 使った分だけ料金(トークン課金)がかかる
条件式で処理しているおかげで、このジョブのランニングコストはゼロです。社内のパソコン1台とOS標準の機能だけで動いていて、外部サービスの契約もAPIの従量課金もありません。
「AIで自動化する」と言うと、全部をAIモデルに投げたくなります。しかし判断が要るところと要らないところを分けることが、実務上いちばん大事な設計判断でした。 定型の集計をAIモデルにやらせるのは、遅くて高くて不安定な選択です。
27本の内訳は、きれいに偏っていた
27本のジョブを社内の部署に見立てて分類すると、こうなります。
| 担当 | ジョブ数 |
|---|---|
| 経理 | 13 |
| 秘書 | 6 |
| 営業 | 3 |
| 社長 | 2 |
| マーケ | 1 |
| 補助金 | 1 |
| 基盤 | 1 |
経理が13本と突出しています。銀行残高の同期、資金繰り予測、月次の損益集計、支払管理、請求書発行のドラフト作成などです。
なぜ経理に偏るのか。経理業務は「入力が決まっていて、出力の形式も決まっていて、毎月同じ日に必ず発生する」からです。 銀行残高は毎朝同じ形で取れます。請求書のフォーマットは毎月同じです。自動化の投資対効果が一番はっきり出る領域でした。
逆にマーケが1本しかないのは、サボっているからではありません。マーケティングの仕事は「今月は何を打ち出すか」「この反応をどう読むか」のように、毎回入力も出力も違います。定型化しきれない仕事は、AIがあっても自動化できない。13対1という数字が、それを示しています。
向く仕事・向かない仕事の見分け方
弊社の27本から逆算すると、見分けるための問いは3つに絞れます。
- 入力の形は毎回同じか。 読み込むデータの置き場所と形式が決まっているか
- 出力の形は毎回同じか。 「この形で出てくれば正解」と言い切れるか
- 毎回必ず発生するか。 毎日・毎週・毎月、決まって繰り返される仕事か
3つとも「はい」なら自動化に向いています。しかも、その多くはAIモデルすら要らず、条件式だけで組めます。1つでも「いいえ」があるなら、そこには人の判断が挟まっています。無理に自動化すると、揺れる・追えない・高くつくの三重苦になります。
もう1つ、忘れてはいけない判定基準があります。毎朝見たい情報は何かを、言葉で決め切れるかです。弊社のブリーフィングは「危険かつS/Aランクの顧客」「期日が7日以内」「先頭8件だけ表示して残りは畳む」という条件を先に決めてから作りました。この条件を決める作業が実質の設計で、コードは後から付いてきます。逆に言えば、条件を言葉にできない業務は、AIを使おうが使うまいが自動化できません。
自動化しても、仕事が減るとは限らない
正直に書くべきことがもう1つあります。
ブリーフィングには社長の決裁を待つ「承認待ち」の件数が毎朝載ります。2026年7月15日は29件でした。4日後の7月19日には37件に増えていました。朝の1枚は毎日出ているのに、そこに載った承認は消化しきれていないのです。
さらに、スマホからメール1通で決裁できる仕組みも動いています。実行ログを見ると、このジョブは1回あたり24通のメールを走査して、実行されたコマンドは0通でした。仕組みは正常なのに、使われていません。
仕組みが動いていることと、経営が回っていることは別物です。 自動化は「情報を出すところ」までは肩代わりしてくれますが、「判断して動くところ」は残ります。むしろ、判断待ちが数字で毎朝突きつけられるようになります。ここを見込まずに自動化だけ進めると、増えていく未処理件数を眺める仕組みが完成します。
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まとめ
- AIに任せてよいのは「入力と出力の形が決まっていて、毎回必ず発生する」仕事です。弊社では経理が13本と最多でした
- そうした定型集計には、AIモデルすら不要です。条件式で組めば安定・低コストで、失敗の原因も追えます
- マーケのように毎回中身が変わる仕事は、27本中1本しか自動化できませんでした。条件を言葉にできない業務は自動化できません
- 自動化しても判断は残ります。承認待ちが29件から37件に増えたのが、その証拠です
あなたの会社でまず自動化すべきなのは、派手な仕事ではなく、経理や決裁まわりのような「毎回同じ形で必ず来る」仕事です。そして、そこにAIモデルが本当に必要かどうかは、一度立ち止まって考える価値があります。
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