結論から:総務・バックオフィスでAIエージェントが効くのは「入力と出力の形が決まっていて、毎回必ず発生する仕事」です。当社は社内27本を自動化しましたが、内訳は経理13本に対しマーケ1本と極端に偏りました。サボったのではなく、定型化しきれない仕事は自動化できないからです。そして最も効いた判断は逆説的で、判断の中核にAIを使わないことでした。毎朝の集計も、見積の可否判定も、AIを呼んでいません。

株式会社TOEはAI開発とAI活用支援を事業としており、この記事は提供する側が書いています。中立の第三者ではありません。他社製品の評価はせず、自社で動かして数えた実測だけを材料にします。

27本の内訳は、きれいに偏った

社内の定型業務を、毎日決まった時刻に自動で動かしています。稼働中のサーバーで設定を確認した実数です。

担当 ジョブ数
経理 13
秘書 6
営業 3
社長 2
マーケ 1
補助金 1
基盤 1

経理が突出しています。銀行残高の同期、資金繰り予測、月次の損益集計、支払管理、請求書発行のドラフト作成など。

理由ははっきりしています。経理は「入力が決まっていて、出力の形式も決まっていて、毎月同じ日に必ず発生する」からです。銀行残高は毎朝同じ形で取れ、請求書のフォーマットは毎月同じです。

逆にマーケが1本なのは、「今月は何を打ち出すか」「この反応をどう読むか」のように毎回入力も出力も違うからです。13対1という差が、そのまま「定型化できるか」の差になっています。

詳しい分析は経理は13本、マーケは1本 — 27本の自動化ジョブが教えてくれた「AIに任せてよい仕事」の見分け方に書きました。

どのくらいの会社が、もう入れているのか

「うちは出遅れているのでは」と感じる前に、実際の普及度を見てください。

調査項目 数字
生成AIを活用している企業 43.4%(全社11.3%+一部部署32.1%)
AIエージェントを利用中 3.3%
同 検討中 13.5%
同 情報収集中 49.3%

AIエージェントを実際に使っている会社は3.3%です。 多数派は情報収集の段階(49.3%)にいます。

ただし数字の読み方に注意が要ります。 3.3%・13.5%・49.3%の分母は、調査対象496社の全部ではなく、生成AIを活用している215社です。全企業ベースの利用率として引用してはいけません。調査対象の企業規模も明示されておらず、業種は5業種に限られます。

読み取れるのは「まだ早い段階にある」という位置関係だけです(調査の読み解きは生成AI活用43.4%に対しAIエージェント利用中3.3%、この差をどう読むのか)。そして先にやるべきは製品選定ではなく、生成AIを部署単位で定着させて業務手順を書き出すことです。手順が書き出せていない仕事は、次章の3つの問いで全部「いいえ」になります。

向く仕事・向かない仕事の見分け方

3つの問いで判定できます。

問い 向いている 向いていない
入力の形は決まっているか 銀行明細、請求書、決まった様式の申請書 相談メール、企画の相談、クレーム
出力の形は決まっているか 集計表、定型の返信、台帳への転記 提案書、企画案、謝罪文
毎回必ず発生するか 月次・週次・日次で必ず来る 不定期、年に数回

3つとも「はい」なら自動化の投資対効果が出ます。1つでも「いいえ」があるなら、部分的に任せる設計にします。

一番効いたのは「AIを使わない」判断

ここが実測から得た最も意外な点です。

例1: 毎朝の経営ブリーフィング

平日8時に経営状況を1枚にまとめるジョブがあります。社内では「AI秘書」と呼んでいますが、大規模言語モデルを1回も呼んでいません。やっているのは、経営データのテキストファイル4本を読み、条件で絞り、並べ替えて書き出すことだけ。スクリプトは110行です。

「健全度が危険で、かつランクがS・Aの顧客だけを抜き出す」は、条件式で書けます。ここにAIを挟むと悪いことしか起きません。

  • 日によって抽出の基準が揺れる
  • 出力の形式が変わる
  • 失敗したとき原因が追えない

毎朝同じ形式で出てくることに価値がある処理なら、AIは不要です。

例2: 見積メールの一次対応

板金加工会社向けに、見積依頼メールを処理するAIエージェントを作り、10件を実際に流しました。

項目 結果
処理した問い合わせ 10件
自動で返信を作れた 7件(うち3件は「対応できません」というお断り)
人間に回した 3件
処理の失敗 0件
所要時間 7分37秒(1件あたり45.7秒)
AIを呼んだ回数 17回(読み取り10回・返信の作文7回)
受注可否の判断にかかった時間 1件あたり0.001秒

最後の行が要点です。受注できるかどうかの判断に、AIを一切使っていません。 板厚・材質・数量を条件表と突き合わせるだけなので、AIより条件式の方が速く、確実で、理由も説明できます。

AIがやったのはメールを読むこと返信の下書きを書くことだけ。詳細は見積依頼のメール10件をAIエージェントに処理させたら、7件は自動で返せて3件は人間に回ったにあります。

総務に入れるなら、この順番

対象 理由
1 決まった様式の転記・集計 入力も出力も決まっていて、毎月必ず発生する。最初に効果が出る
2 定型メールの一次対応 読み取りと下書きはAI、可否の判断は条件式、という分担にする
3 例外処理を含む業務 人に回す条件を先に決めてから。 見積の例では3割が人に回った
判断が毎回変わる仕事 自動化の対象にしない。マーケが1本しかない理由

自動化しても、仕事が減るとは限らない

正直に書いておきます。当社では27本を自動化しても、承認待ちは減りませんでした。

決裁をメール1通で済ませられる仕組みも作りましたが、実行されたコマンドは0通、承認待ちは29件から37件に増えました。仕組みは正常に動いています。変わらなかったのは使う側の習慣です(メール1通で決裁できる仕組みを作ったのに、実行されたコマンドは0通だった)。

処理を速くすることと、仕事が終わることは別です。ここを混同すると、「入れたのに何も変わらない」という結果になります。

この記事で言えないこと

  • 他社製品の比較はしていません。 当社は提供する側で、評価する立場にありません
  • 費用対効果の金額は出していません。 自社プロダクトなので受託金額がなく、出せるのは規模と稼働の実数だけです
  • ここに書いたのは、当社が動かして数えたことだけです

まとめ

  • 効くのは「入力と出力の形が決まっていて、毎回必ず発生する仕事」。当社27本の内訳は経理13本・マーケ1本
  • 判定は3つの問い — 入力の形/出力の形/毎回発生するか。1つでも「いいえ」なら部分的に任せる
  • 最も効いた判断は「AIを使わない」こと。毎朝の集計は110行のスクリプトで、大規模言語モデルを1回も呼んでいない
  • 見積メールは10件中7件を自動化、3件は人へ。ただし受注可否の判断はAIではなく条件式(1件0.001秒)
  • AIに向くのは読み取りと下書き。判断と最終確認は人か条件式に残す
  • 入れる順番は 決まった様式の転記 → 定型メールの一次対応 → 例外処理。判断が毎回変わる仕事は対象にしない
  • 処理が速くなっても仕事が終わるとは限らない。 当社は決裁の仕組みを作ったが実行0通、承認待ちは29→37件に増えた
  • 普及度はAIエージェント利用中3.3%・情報収集中49.3%(分母は生成AI活用企業215社。全企業ベースではない)。製品選定より先に、業務手順を書き出す

この記事の立場 株式会社TOEはAI開発・AI活用支援を事業としており、提供する側が書いています。中立の第三者ではありません。他社製品の評価はせず、自社で動かして数えた実測だけを材料にしています。

実測値の出所 - 生成AI活用43.4%・AIエージェント利用中3.3%・情報収集中49.3%: 矢野経済研究所の調査(n=496社、実査2025年6月末〜9月初)。3.3%等の分母は生成AI活用企業215社で、全企業ベースの利用率ではありません。対象業種は5業種に限られます - 27本の内訳: 稼働中サーバーの cron 設定(2026年8月1日時点) - 見積エージェント10件: 実行ログ(処理時間・AI呼び出し回数を含む) - 決裁の仕組みの実行0通: 株式会社TOEの実行ログ(2026年7月)