先に結論です。株式会社TOEは、自社メディアでAIによる日本語→英語の機械翻訳を「品質が公開に耐えない」と判断し、ページ数を稼げるのに載せることをやめました。AIの出力は、それらしく見えても正しいとは限りません。対外的に出す文章は人が検品し、AIが作った部分はそれと明示する。この2つが、私たちが実際に運用して行き着いた線引きです。
前提:AI翻訳で回っているメディアの話です
「AIの翻訳は使うな」という話ではありません。むしろ逆です。
弊社が2026年7月18日に公開した宇宙開発情報メディア「UchUchU」(uchuchu.tech)は、AI翻訳なしでは成り立ちません。規模はこうなっています。
- 掲載件数は1,003件(ニュース553件、打ち上げ情報200件、研究250件、自作記事2件、FAQ9件)
- 収集元は無料の公開APIとRSSで28ソース
- 日本語と英語の2言語で129ページ
海外の英語ソースから集めた記事の見出しなどを日本語にする部分は、AIの翻訳で回しています。運用中の従量課金をゼロに保つという設計方針のため、外部の翻訳APIではなく、手元のMacで動くAIをスクリプトから呼ぶ形です。訳した結果はキャッシュ(一度訳した文を保存して使い回す仕組み)に貯めて、同じ文を二度訳さないようにしています。
つまり弊社は、AI翻訳の恩恵を一番受けている側です。そのうえで、使わなかった話をします。
同じAIなのに、英→日は使い、日→英は捨てた
サイトは日英2言語です。当然「日本語の記事を英訳すれば、英語サイトのページ数はもっと増やせる」という発想が出ます。ページ数はメディアの見かけの規模に直結するので、増やしたい誘惑は強いです。
実際に試した結果が、社内記録にこう残っています。日→英の機械翻訳は品質が公開に耐えない。漢字が壊れる。 訳し切れなかった日本語がそのまま出力に残るような品質で、これを英語圏の読者に見せるわけにはいきませんでした。
そこで方向によって扱いを分けました。
| 翻訳の方向 | 用途 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 英語→日本語 | 海外ソースの記事を日本語読者向けに | 使う。ただし「自動翻訳」と明示 | 実用品質。ただしAI訳であることは隠さない |
| 日本語→英語 | 日本語記事を英語サイトに載せる | 載せない | 品質が公開に耐えない(漢字が壊れる) |
結果として、英語サイトに載せるのは英語ソースの記事だけ、と決めました。日本語で書いた自作記事は、機械翻訳して英語サイトに並べることをしていません。英語側のページ数は増えませんが、壊れた英文を会社の名前で公開するよりましだ、という判断です。
ここで大事なのは、同じAIでも、タスクの向きが変わるだけで品質が公開ラインを割ることがある、という点です。「英→日がこれだけ使えたのだから、日→英も大丈夫だろう」は成り立ちませんでした。実物を出してみて、人が読んで、初めて分かりました。
「自動翻訳」と書く理由
弊社のメディア運営には成文化した鉄則があります。その2番が「出典を偽らない」です。
- 他媒体から集約した記事を、自社記事のように見せない
- 検索エンジン向けの構造化データでも、リンク集(ItemList)と自作記事(Article)を厳密に区別する
- 機械翻訳には必ず「自動翻訳」と明示する
AIの翻訳文は、一見すると人が書いた文と区別がつきません。だからこそ、黙って載せれば人が訳したように見えます。それをやると、誤訳が見つかったときに「人が訳してこれか」と信頼ごと失います。先に「自動翻訳です」と書いてあれば、読者は精度の限界込みで読んでくれます。明示は自己防衛でもあるわけです。
そして鉄則の3番が「品質が出ないものは出さない」。件数を稼ぐために品質の足りないものを載せない、載せない判断をしたら理由を記録に残す、と決めています。日→英をやめた件も、この記録があるから今こうして記事に書けています。「やらない」と決めたことも、理由つきで残す。 これは地味ですが効きます。残っていなければ、担当が変わった時点で誰かがまた同じ翻訳を試して、同じ失敗をします。
あなたの会社でAIの文章を外に出す前に
翻訳に限らず、AIに要約・商品説明・案内文を作らせて対外資料に使う場面は、もう普通にあると思います。弊社の経験から言える確認点は3つです。
- 出す前に、その言語・その分野が分かる人が読む。 AIの出力は「それらしさ」だけは常に満点です。英文なら英語が読める人が、専門的な説明ならその業務の担当が、公開される形のまま一度読んでください。私たちも、実物を読んで初めて日→英が使えないと分かりました。
- AIが作った部分は、AIが作ったと明示する。 隠して出すと、間違いが見つかったときに文章の間違いではなく会社の誠実さの問題になります。明示していれば、読み手も精度の前提を共有できます。
- 「量が増やせるから載せる」をやめる。 AIの怖さは、品質の足りないものを無限に量産できることです。件数・ページ数のために公開ラインを下げ始めると、メディアでも会社案内でも、資産のつもりで負債を積むことになります。
逆に、AIに任せてよい条件もはっきりしています。弊社の英→日翻訳のように、品質を人が一度確かめてあり、AI製と明示でき、間違っても致命傷にならない用途です。この3つが揃わないものは、まだ人の仕事です。
関連する記録
まとめ
- 弊社の自社メディアUchUchUは1,003件・28ソースをAI翻訳込みで運用しているが、日→英の機械翻訳は品質が公開に耐えない(漢字が壊れる)と判断し、ページ数を稼げるのに載せていない
- 同じAIでもタスクの向きが変わるだけで品質は公開ラインを割る。実物を人が読むまで分からない
- 使っているAI翻訳には必ず「自動翻訳」と明示する。隠すと、誤りが見つかったとき信頼ごと失う
- 「載せない」と決めた判断は理由つきで記録する。残さないと同じ失敗を繰り返す
- AIの出力を対外資料に使う条件は、人が検品済み・AI製と明示・誤っても致命傷にならない、の3つ
株式会社TOEでは、こうした「どこまでAIに任せ、どこから人が締めるか」の線引き設計を含めて、中小企業のAI導入をお手伝いしています。自社の資料や業務でAIをどこまで使ってよいか迷ったら、お問い合わせからご相談ください。