在庫管理・需要予測へのAI活用は、営業支援などと比べて公表データが多い分野です。天候・曜日・過去の販売実績といった数値データを扱う業務のため、AI(正確には機械学習によるデータ分析)と相性がよく、大手小売やエネルギー会社が具体的な数字を出して発表しています。

「需要予測AI」と一言で言っても、やっていることは会社によって幅があります。発注担当者に推奨数を提示するだけのものもあれば、値引きのタイミングと額まで提案するもの、配送計画まで自動で組むものもあります。この記事では、確認できた公表事例の数字を中心に、需要予測AIの実力と限界を整理します。

コンビニの発注業務での実例

需要予測AIがもっとも広く使われている現場のひとつが、コンビニの発注業務です。

イトーヨーカ堂は2020年9月から、AIを使った発注システムを全国132店舗に導入しました。対象はカップ麺や菓子、冷凍食品、アイス、牛乳などの加工食品約8000品目です。価格や陳列の列数、気温・降水確率といった天候情報、曜日特性、客数などをAIが分析し、発注担当者に販売予測数を提案する仕組みで、2018年春からのテスト店舗では、発注作業にかける時間を平均で約3割短縮できたと公表されています(出典:流通ニュース、https://www.ryutsuu.biz/it/m083115.html)。

ローソンは、機械学習を用いた「セミオート発注」を全国約1万4000店に展開しています。1店舗あたり約3500品目のうち、おにぎりやサラダなど消費期限の短い1200品目が対象で、天候や気温、過去の販売実績、会員データによる周辺店舗の販売状況など約100の因子を分析し、1日4回発注推奨数を算出しています。この仕組みにより発注にかかる時間が従来比で44分短縮され、計画発注とあわせて1人あたり1日2時間の作業時間削減につながったとされています。また、値引き販売とあわせて、1店舗あたりの廃棄高は前年比で1割削減されたと報じられています(出典:ニュースイッチ、日刊工業新聞社、https://newswitch.jp/p/22165)。ローソンはその後、この仕組みを発展させた次世代発注システム「AI.CO」を2024年7月に全国店舗へ導入完了しています(出典:食品新聞、https://shokuhin.net/107029/2024/10/06/ryutu/kouri/%EF%BD%83%EF%BD%96%EF%BD%93/)。

需要予測の精度そのものを公表している例

発注時間の短縮だけでなく、予測そのものの「当たり具合」を数字で出している事例もあります。

出光興産は2018年、NECの人工知能技術を使い、青森・八戸・塩釜・福井の各油槽所からサービスステーションおよび需要家への出荷について、出荷実績や原油価格、気温・降水量などの気象情報をもとにした出荷予測の実証実験を行いました。その結果、レギュラーガソリンでは出荷実績と2週間先の予測との誤差を5%程度に抑えることができたと公表されています。同社はこの仕組みを2020年中に国内46拠点へ展開しています(出典:NEC、https://jpn.nec.com/press/202002/20200207_01.html)。石油製品は貯蔵にも輸送にもコストがかかるため、誤差を数%単位で縮められることは、油槽所の在庫水準を必要以上に積み増さずに済むという意味で、そのままコスト効果につながります。

これらの事例に共通するのは、天候・曜日・価格といった構造化されたデータが元々豊富にある業種だという点です。POS(販売時点情報管理)データやこれまでの発注実績が長期間蓄積されている業界ほど、AIに学習させる材料があり、精度が出やすいと考えられます。

出光興産はその後、燃料油の配車計画にもAIと最適化モデルを組み合わせた新システムを導入し、サービスステーションごとの需要予測をAIが行い、その予測に基づく配車計画の作成を最適化モデルが担う体制に切り替えています。この取り組みでは、配車計画の作成時間を25%削減したと公表されています(出典:出光興産、PR TIMES、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000531.000023740.html)。需要予測の精度を上げるだけでなく、その予測をどう配送・発注の実務に落とし込むかという後工程まで含めて設計している点が特徴です。

導入の壁とコスト面の注意

一方で、需要予測AIの解説記事では、精度が発揮されにくい条件についても繰り返し指摘されています。新商品やスポット的なキャンペーン商品のように、過去の販売データがほとんどない商品では、AIが参照できる実績自体がないため、経験の長い担当者の勘のほうが的中率が高いことがある、という指摘は複数の在庫管理AI解説記事で共通して見られます。台風や大規模イベントなど、通常のパターンから外れる急な変化にも弱い傾向があるとされています。

また、上に挙げた事例はいずれも、数千店舗・複数拠点規模で長年データを蓄積してきた大手企業のものです。中小企業がいきなり同水準の精度を再現できるとは限りません。小規模な店舗や倉庫では、そもそも一定期間分のPOSデータや発注履歴が電子化されていないケースもあり、AI導入以前にデータ整備そのものが最初のハードルになることがあります。

コスト面では、需要予測AIのサービスは月額利用料に加えて、既存の発注システムやPOSシステムとの連携作業に初期費用がかかることが一般的です。効果が出るまでには数カ月単位でのデータ蓄積・チューニング期間が必要になることも多く、「導入した翌月から発注時間が3割減る」というような即効性を期待すると、想定とのズレが生じやすい点は留意が必要です。

さらに、AIが出した推奨発注数を最終的にどこまで人が確認するかという運用設計も、実際には効果を左右します。推奨数をそのまま自動発注に回す仕組みにするか、担当者が毎回目を通してから確定するかによって、必要な体制もリスクも変わります。イレギュラーな欠品や過剰発注が起きた場合に誰が責任を持って原因を調べ、AIの予測ロジックにフィードバックするかを決めておかないと、精度が改善されないまま運用だけが続く、ということも起こり得ます。

では自社では何から始めるか

大手事例に共通するのは、AIツールの導入そのものより先に、天候・曜日・価格・販売実績といったデータを継続的に記録・蓄積してきた期間の長さです。自社でまず確認できるのは、「発注や販売の実績データがどれくらいの期間、どの粒度で残っているか」という点だと思います。POSデータや発注履歴が数年分あるのか、それとも紙の伝票や担当者の記憶に依存しているのかによって、取れる選択肢は変わってきます。

データがある程度そろっている場合は、全品目を一気にAI発注へ切り替えるのではなく、ローソンの事例のように消費期限が短く需要変動の大きい一部の品目に絞って試してみる、という進め方も考えられます。逆にデータが薄い場合は、需要予測AIの導入より先に、日々の販売実績を電子的に記録する仕組みを整えるほうが、結果的に近道になることもあります。どちらから着手するかは、自社のデータの現状を棚卸しした上で判断するのがよいと思います。